第三章 敦子、目覚める
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ーテン、と、ことごとくが洋風のこの部屋であるが、異なる点をあげるならば部屋主である敦子自身であろうか。
やや小柄の、にきびとそばかすの混じった面に、黒縁眼鏡、どこからどう見ても東洋人というか日本人なのだから。
顔立ちは特段褒める要素もなければ、さりとて特段けなす要素もなく、ただひたすらに、地味。
常に微笑んでいることによる愛嬌はあるものの、これは顔の造形という基礎評価とは無関係であろう。
敦子は、ぬいぐるみを倒さないようそっとカーテンを開けると、朝日を上半身全体に浴びながら、また大きく伸びをした。
ここ、敦子の部屋は一軒家の二階にある。
窓の外を見回せば、彼女にとっての本意か不本意か完全なる日本的風景。東京都武蔵野市の住宅街であり、視線を走らせればこの家と同じような家がびっしりと並んでいる。
視線をすぐ目元に落としたところ、玄関上の屋根瓦に一羽の雀がとまっているに気がついた。
「ツバメさん、ツバメさん、もう王女様へいばらのつるは届けたの?」
どうやら彼女の脳内では変換フィルターが働いているらしく、相当にメルヘンチックな光景になっているようである。
と、そんな敦子を、ドアの向こうに立っている兄の沢花祐一が、腕組みしながら胡散臭そうな表情でじーっと見ていた。
ふと振り向いた敦子は、それに気付いてビクリと身体を震わせると、
「ちょ、なに勝手に見てんのおお! やだもう、最低兄貴! 変態兄貴! 超変態兄貴! 超兄貴!」
顔を赤らめながら、恥ずかしさをごまかすように罵倒絶叫乱れ打ち。
「やかましい。お前がドア全開で寝てただけだろ! バカ」
「嘘だあ。絶対に閉めてたよ。さっき起きて見た時もちゃんと閉まってた、気がする。……それより、あたし着替えるんだけど」
「はいはいはい」
祐一は、なんら照れた素振りもなく、心底どうでもいいどころかむしろげんなりといった表情で、部屋のドアをぱったん閉めた。
「うーん。ああまで全然照れのない態度をとられると、むしろなんか腹立たしいなあ。……そんなことより、兄貴に恥ずかしいところを見られてしまったな……」
まさか、ぬいぐるみたちに話し掛けているところを見つかってしまうとは。
アニメ好きであることや、声優を目指していることは知っている兄貴だけど、まさか妹が日々こんなことをしているなどとは思いもしなかっただろう。
嫌いでやっているわけでもないが、とにかくこれは訓練なのだ。
そう、アドリブ力、右脳左脳を結びつける力を養うための、特訓なのだ。
だから仕方ないじゃないか。
度胸つけるために電車の中で叫ぶ、とか、そういうのはさすがに無理だけど、なら、やれることをひたすら
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