第一章
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髭男
八条大学社会学部二回生の赤崎謙信は友人達と一緒に飲んでいる時にいきなりこんなことを言い出した。
「あたくしお髭生やしますわ」
「えっ、髭か?」
「髭生やすのか?」
「そうするのか?」
「ええ、そうしましてよ」
地のお姐言葉で話すのだった、普段からこの口調だ。見れば髪型は角刈りで長身で逞しい身体つきだ。長方形の顔で目は切れ長で眉は太い。今の顎も口元も一言で言うとツルツルである。
「決めましたわ」
「髭か」
「髭生やすのか」
「そうするのか」
「これから」
「何かお洒落をと思いまして」
それでというのだ。
「生やしますの」
「まあやってみたらどうだ?」
「ものは試しでな」
「正直どんな髭かわからないけれどな」
「まずは生やしてから言うな」
「それでは」
こうしてだ、謙信は髭を生やすことにした。その時彼はこうも言った。
「あたくしの名前は謙信ですわね」
「上杉謙信さんから名前取ったんだろ」
「あの有名な戦国大名だな」
「越後の龍な」
「戦えば無敵だった」
「ゲームでも鬼みたいに強い」
「信玄さんのライバルだな」
日本で知らない人の方が少ないと言い切れるだけの歴史的人物だ、故郷の越後今の新潟では絶対の英雄である。
「無類の酒好きで」
「毘沙門天の化身だな」
「心清らかで義の為に戦う」
「凄い人だったな」
「その謙信さんもお髭を生やしていましたの」
謙信は自らの名前の元のその英雄の話をさらにした。
「元はお祖父様が新潟生まれで付けられましたが」
「それで、か」
「謙信さんもお髭を生やしていたからか」
「御前も髭生やすか」
「そうするんだな」
「謙信さんを尊敬していますの」
名前だけでなく、というのだ。
「強く正しく清潔で格好いい」
「そんなイメージの人だよな」
「爽やかな人だよ」
「生涯結婚しなかったしな」
「仏門にも帰依していて」
当時の大名としては稀有な例であることも有名だ。
「毘沙門天を深く信仰していて」
「実際に毘沙門天みたいに生きたな」
「それで赤崎もか」
「謙信さんみたいに髭生やすか」
「そうするか」
「そうよ、あたくしもですわ」
完全にお姐の仕草で言う謙信だった。
「お髭、生やしますわ」
「まあいいんじゃないか?」
「俺達は反対しないぜ」
「謙信さんみたいになりたいんならな」
「立派な人だったっていうしな」
少なくとも宿敵武田信玄や織田信長と比べるとかなり清廉潔白な印象が多い。敵であった彼等が策謀も使っていたのとは違い。
「別に髭生やして悪いことないしな」
「校則とかにもないし」
「いい髭生やせよ」
「そうしな」
友人達も狩れに笑って話した、かくしてだった。
謙信は髭を
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