第四章
[8]前話
「そうだったんだね」
「はい、私は見ていてです」
「気付いていたんだ」
「誰にも申し上げますまいと思っていましたが」
「僕自身が気付いたね」
「そうですね」
「そうだね、そうだったんだ」
遠い目になってだ、久修はこうも言った。
「あの時が僕の初恋だったんだ」
「そうだったのです」
「成程ね」
「私もありました」
「若田部さんにも」
「はい」
こう久修に答えるのだった。
「久修様より少し年上の時ですが」
「そうだったんだ」
「誰もが経験することです」
「初恋は」
「そしてそれはです」
初恋のこと自体も話すのだった。
「大抵適いませんが」
「そうだね、僕もね」
言われてみればそうだった、彼も今気付いたその初恋は沙織が結婚したことで終わっている。
「適っていないね」
「そうしたものです」
「僕が今気付いた位だし」
「あれが初恋だったとですね」
「そんなものかな」
「それに恋のことを知らないと」
そもそもというのだ。
「適うものでもありませんね」
「何も知らないと何も出来ないね」
「だから初恋は適わないのでしょう、しかし」
それでもとだ、若田部は久修に優しい穏やかな声で話した。
「それは決して悪い思い出ではないです」
「そういえば僕も」
「悪い思い出ではないですね」
「うん、適わなかったけれど」
それでもとだ、久修も若田部に答えた。
「いい思い出だよ」
「淡くて甘い」
「本当にそんな感じのね」
「その気持ちは誰にもあるのです」
経験しているからだというのだ。
「私が思うことは」
「それは何かな」
「そのお気持ちを大事にされて下さい」
初恋の時に感じたそれをというのだ。
「是非」
「そうしてだね」
「恋愛に向かわれて下さい」
「そうだね、それじゃあね」
「恋愛は尊いもの、素晴らしいものなので」
これは若田部がこれまでの人生経験で知ったことだ、彼は今それを若い主に対して話しているのだ。
「是非です」
「うん、恋愛をね」
「されて下さい」
沙織への適なかったが淡くそれでいて甘い気持ちを抱いたまま、というのだ。
「これからは」
「そうしていくね」
「私が応援していますので」
「それじゃあね」
久修は若田部の言葉に頷いた、そのうえで恋愛について真剣に考える様になった。中学生になった時の人生におけるはじまりの一歩のうちの一つであった。恋愛についてのそれを。
年上メイド 完
2017・8・17
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