第二章
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「残念だけれど」
「それはね」
「結婚するなら仕方ないよね」
「それで辞めるならね」
「学校の先生でもあるしね」
「そうだね、ただね」
ここでだ、久修はこうも言った。
「これまでと違うんだ」
「違う?」
「違うっていうと」
「何かね」
どうにもとい顔でだ、久修はクラスメイト達にこうも話した。
「あの人を見ていると、それでいなくなるって思ったら」
「どうなの?」
「どう違うの?」
「これまでのメイドさんや学校の先生と違って」
家庭教師も然りである。
「残念で悲しい気持ちになるんだ」
「そうなんだ」
「それは不思議だね」
「もう会えないって思うと悲しいけれどね」
「そこに残念って気持ちが入るのは」
「ちょっとね」
「不思議だよね」
このことはクラスメイト達も思う、それでだった。
彼等も首を傾げさせた、そして久修自身それがどうしてかわからなかった。そして家に帰ってだ。その茂木沙織を見た。
しっかりとした一直線な感じの斜め上に伸びた黒い細めの眉にやや小さい切れ長な感じの黒目がちの瞳白い少し頬が目立つ面長の顔に黒く伸ばして奇麗にセットした髪。スタイルはすらりとしていて背は一五六程だ。メイド服もよく似合う。
その沙織にだ、久修はこう言った。
「沙織さんもうすぐ結婚するんだ」
「はい、再来月に」
沙織は久修に硬質の奇麗な声で答えた。
「そうなります」
「それでお仕事辞めるんだ」
「そうなります、ただ」
「ただ?」
「従妹が代わりに来ますので」
沙織の親戚の彼女がというのだ。
「宜しくお願いします」
「そうなんだ」
「高校を卒業してすぐにですが」
それでもというのだ。
「色々至らないですが宜しくお願いします」
「それじゃあね、ただ」
「ただ?」
「沙織さん辞めたら」
そのことをだ、久修は沙織に寂しい顔で言った。今彼は自分の部屋でおやつを食べていて沙織はその傍でお茶の用意をして立って控えている。
「もううちには来ないんだ」
「そうなります」
「そうだよね、何かね」
「何かとは」
「もう会えないって思うと」
こう言うのだった。
「寂しくて悲しくて残念だよ」
「そうなのですか」
「何かね。けれどね」
それでもとだ、お菓子のその甘さを今は楽しめずに言った。
「結婚するなら仕方ないよね」
「申し訳ありません」
「今謝る時かな」
このことはまだ子供である久修にはわからなかった、首を傾げさせるだけで。
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