第三章
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「今の皇帝になってだ」
「我々の暮らしは悪くなった」
「戦争も多く税も高くなった」
「法もがんじがらめだ」
「そうなった」
「そんな皇帝は退位させろ!」
ここでまた声がした。
「新しい皇帝を立てろ!」
「そうだ、そうしろ!」
「今の皇帝は駄目だ!」
「退位させろ!」
「そうさせろ!」
コンスタンティノープルは忽ちのうちに皇帝の退位を求める暴動で騒乱状態となった。それを見てだった。
当のユスティニアヌスは即座に御前会議を開いた、そしてそこで皇后や主だった廷臣や将軍達に対して言った。
「この騒ぎは大火だ」
「かつてローマを燃やした」
「ネロ帝の時の様な」
「そうだ、どうしようもない」
こう言うのだった、皇帝の座から。
「だからここはだ」
「難を逃れる」
「暴徒を避けられる」
「そうされますか」
「今なら充分間に合う」
ユスティニアヌスはこの騒ぎの中でも冷静だった、その冷静さから言うのだった。
「だから宮殿の船着き場からだ」
「船に乗りですね」
「そして都を出て」
「一時難を逃れ」
「そうして暴徒共が落ち着いてからですか」
「ことを収めますか」
「そうしよう、ここは」
こう廷臣や将軍達に言った、だがここでだ。
皇帝の横にいるテアドラが皇帝に対してだ、強い声で言ってきた。
「皇帝、それはよくないかと」
「逃げるべきではないか」
「はい、生まれた者は必ず死にますね」
「それはその通りだ」
「それは誰もが。しかし」
「しかし?」
「それは権威と支配にも言えるものです」
こう皇帝に言うのだった。
「人の上に立った、皇帝ならば」
「余計にか」
「ですから」
「ここはというのか」
「逃げてはなりません」
強い声で言い切った。
「皇帝は権威と支配を失えば死んだも同然、ここで逃げてもです」
「権威は傷付くか」
「その権威を傷付けたいのでしょうか」
夫である皇帝を見据えて問うた。
「逃げられて」
「若し新しい皇帝が立てば」
「偽帝ですが皇帝は皇帝」
「やはり朕の権威に傷がつくな」
「そうなります、紫の衣を着ていても」
皇帝の象徴であり特別に染められたこの衣を着てもというのだ。
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