228部分:第十七話 山でその五
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第十七話 山でその五
「ほら、あそこに」
「鉄道ですね」
「八条鉄道のものです」
まさに模型の如くだ。それが走っていた。
その鉄道も見てだ。真理に話すのだ。
「私達が心血を注いで造って走らせているものも」
「ここから見ればですね」
「本当に模型です」
そうしたものにしか見えなかった。まさにだ。
「動く模型です」
「動くですか」
「そういえば何時かは」
ここでこんなことも話す義正だった。
「模型も動く様になるかも知れません」
「模型が動きますか」
「はい、動く模型を造られるようになるかも」
「何か。それは」
「夢みたいな話ですね」
「けれど夢はできると思えば」
どうなるか。それを話す真理だった。
「実現できますね」
「はい、ですから」
「何時かはですか」
真理はその小さく見える線路の上を走る鉄道を見て言った。それはもう豆粒の如き大きさだ。しかし間違いなく動いていた。二人は見ていた。
そうしてだ。真理はまた言った。
「けれど。模型もですか」
「八条財閥では取り扱っています」
「実に様々なことをですね」
「そうです。扱っています」
鉄道や百貨店だけでなくだ。その他のこともだった。
「ですから」
「それも夢なのですね」
「はい。模型にもです」
「夢がですか」
「所謂おもちゃですが」
模型はその定義に入る。それで話すのだ。
「それもまた夢です」
「そこには夢がありますか」
「子供達はそのおもちゃを買って遊びますね」
「はい」
幼い頃なら誰でもだ。そうするというのだ。
このことは真理も経験がある。子供の頃の楽しい思い出だ。
そしてそのことにだ。真理は言うのだった。
「そこには確かにですね」
「夢がありますね」
「そこに夢を見ていました」
子供の頃の自分を思い出しての言葉だ。
「そういうことですか」
「そうです。ですから」
「子供達に夢を」
「模型は木か鉄のものですが」
この時代の技術ではそうだ。まだブリキのおもちゃというものも出てはいない。もっともブリキのそれもやがては伝統用品の様になってしまうのだが。
「しかしやがては」
「やがては?」
「新しい技術によって」
そのだ。技術によってだった。
「さらに素晴しい模型ができるかも知れません」
「さらにですか」
「はい、何かのです」
義正は知ることができなかった。やがてプラスチックという画期的な技術が世に出ることをだ。それは模型も大きく変えていくのだ。
だが今はその木と鉄からだ。彼は話すのだった。
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