209部分:第十六話 不穏なことその一
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第十六話 不穏なことその一
第十六話 不穏なこと
義正と真理の生活がはじまった。二人は八条町の海の方の洋館に移った。義正の家である八条家の別邸の一つに入ったのだ。
そこで新しい生活をはじめながら。義正は自分の仕事場で書類の整理をしながら佐藤に尋ねた。彼はこれまで通り義正に仕えているのだ。
サインをしながらだ。彼にこう尋ねたのである。
「何か変わったところはあるかな」
「仕事のことでしょうか」
「うん。百貨店の方は」
「順調です」
「大阪の方への進出も」
「はい、それも順調です」
そうだというのだ。
「土地も確保していますね」
「入れる店舗は」
「本屋ですが」
「それはどうなのかな」
「かなりの規模の店になりました」
そうなったというのだ。本屋の大きさもだ。
「百貨店の中では随一の規模になるかと」
「本屋、そして」
「レコード店もですね」
「そっちはどうなのかな」
「そちらもかなりです。楽器も販売されます」
「えっ、楽器も?」
楽器も売られることになると聞いて義正は思わず声をあげた。彼にとっては楽器まで話に出るとは思えなかったのだ。そこまではだ。
「じゃあバイオリンやそうしたものも」
「ピアノもです」
「それも売られるんだ」
「そうです。今度の百貨店は文化面に力を入れますので」
「それでなんだ」
「ピアノの様なものまで」
義正はピアノまで売られると聞いて言う。こんなことも言ったのだ。
「それじゃあだけれど」
「はい、それでは」
「店の中でピアノの演奏もできるね」
「そうですね。それも可能ですね」
「店の中全体でそうした楽器の演奏ができる」
時代の先端をいっているだけでなく華やかでしかも文化的である。義正にとってそのことはまるで夢を見ているような話だった。
しかし彼はだ。それを現実として考え佐藤に話すのだった。
「いいね。話題になるね」
「お客様が大勢来られますね」
「それも何度も」
「大勢のお客様が多く来られてこそ」
「百貨店は成り立つから」
これはどの商売でも同じだ。やはり大勢の客が何度も通ってこそ商売というものは成り立つのだ。そうでなければ成り立たないのである。
だからだ。義正は言うのだった。
「いいね」
「そうですね。それでは」
「いいと思うよ」
義正は微笑んでそれをよしとしたのである。
「新しい百貨店だね」
「無論衣服やそういったものもです」
「充実させるんだね」
「文化的で豊かな百貨店です」
それがだ。今度進出する大阪の百貨店になるというのだ。
「そうなります」
「日本も変わってきたね」
ひいては日本のことも考えて言う義正だった。
「そういう百貨店ができるなんて」
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