暁 〜小説投稿サイト〜
儚き想い、されど永遠の想い
207部分:第十五話 婚礼その十六
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第十五話 婚礼その十六

「ローエングリン第三幕の婚礼の合唱です」
「前に聴いた様な気がしますが」
「そうだったでしょうか」
 その辺りの記憶は曖昧だ。だがそれでも二人はこう話すのだった。
「ですがそれでも今は」
「そうですね。はじめて聴く様ですね」
「とても新鮮に聴こえます」
 こう二人で話すのである。
「清らかな音楽ですね」
 真理はその第三幕の婚礼の合唱を聴いて述べた。
「とても」
「そうですね。聴いているだけで」
「音楽はです」
 真理は珈琲を飲みながら微笑み話す。
「その時によって聴いていて感じるものが違うのですね」
「同じ音楽であっても」
「はい。そうも思います」
 こう義正に話すのだった。
「それが今わかった様に思えます」6
「この音楽はです」
 そのだ。ローエングリン第三幕の婚礼の合唱がどうかというのだ。この曲はローエングリンとエルザの婚礼の場で歌われる曲なのだ。
 その曲を聴いてだ。真理はエルザに感情移入して話す。
「エルザ姫ですが」
「そのローエングリンのヒロインですね」
「そうなる人なのでしょうか」
「そうなるとは」
「はい、確かローエングリンに名を問うなと言われましたね」
「そうです。しかし問うてしまったのです」 
 これがローエングリンの物語の主題なのだ。それに問うて彼の名を知ってしまい別れになる。悲しみで幕を下ろす作品なのである。
 しかし今の音楽はあくまで美しい。その音楽こそがなのだった。
「この曲を聴いていると」
「幸せにですね」
「永遠に幸せになりたいと思います」
「そう思わせる音楽」
 義正も言う。地獄の様に熱く天使の様に甘い珈琲を飲みながら。
「それがこの音楽ですね」
「そうですね。二人で聴くと尚更思えますね」
「私は一人で聴いていました」
 そのだ。ローエングリンをだというのだ。
「そうしていました」
「しかしそれではですか」
「こうは感じられませんでした」
「二人で。永遠に聴いていたい」
「ローエングリンもそう思った筈です」 
 エルザと別れざるを得なかっただ。そのローエングリンもだというのだ。
「実際にワーグナーも思ったのです」
「幸せな結末ですか」
「はい、結末です」
「それでは。その結末は」
「幸せに終わらせようかとです」 
 つまりだ。ローエングリンとエルザが結ばれる結末だ。それを考えたというのだ。
「しかし迷った末にです」
「ああした結末ですか」
「そうしたのです」
 このことは様々なことがワーグナーの周囲でも話されていたのだ。ワーグナー自身も熟考した。しかしそれでもなのだった。
 結果としてワーグナーは結末を悲しいものにした。幸せは一つにするしかなかったのだ。だが二人はその悲しい結末になる
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ