202部分:第十五話 婚礼その十一
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第十五話 婚礼その十一
「酒ですが」
「ステーキと共に飲む酒といいますと」
「おわかりですね」
「ワインですね」
客人はその期待している笑顔のままそれだと答えた。
「それになりますね」
「そうです。伊太利亜からのワインです」
「伊太利亜ですか」
「ワインは仏蘭西のものだけではないのです」
「それは聞いていますが」
「伊太利亜のワインは飲まれたことはないですか」
「はい、実は」
そうだとだ。客人はいささか戸惑った顔になって答えた。
「ないです」
「そうだったのですか。伊太利亜のワインは」
「もっぱら独逸のものを」
飲んでいるというのだ。ワインは独逸のものも知られている。モーゼルワインのことは日本においても知っている者は讃えていたのだ。
その酒のことをだ。客人はここで話すのだった。
「それを飲んでいます」
「そうですか。だからなのですね」
「はい、伊太利亜ははじめてです」
「左様ですか。では余計に」
「飲ませてもらいます」
こう話をしてだった。二人はそのステーキと伊太利亜のワインを楽しむのだった。そうして二人の幸せの終わりとはじまりを待っていた。そして。
遂にだ。その日が来たのだった。
義正は既に白い礼服に着替えていた。その服こそがだった。
「西洋ではその服でだな」
「婚礼に向かうのですね」
「はい」
その通りだとだ。彼は自分の前にいる両親達に答えた。
「その通りです。この服で」
「あの十字架の前で」
「式を挙げるのですね」
「実際に見られたことは」
「実ははじめてだ」
そうだとだ。父が答えた。
「今までなかったことだ」
「そうだったのですか」
「縁がなくてな」
こうした場に同席するのも縁だ。そうだというのだ。
「だからだ。なかった」
「左様でしたか」
「しかし。はじめて見るのがな」
「そうですね」
母もだ。今の我が子の姿を見て笑顔で言うのだった。
「義正で何よりだ」
「本当にそう思います」
「有り難うございます。それでは」
彼は式に向かうことになった。今彼等は結婚式場の控え室にいるのだ。無論同じ建物の中に真理もいる。まさに今二人は主役だった。
その主役の一人に対してだ。義正の両親と共にいる小柄な少女が言ってきた。顔立ちは母を若返らせた様な感じだ。その彼女がだ。
義正を見てだ。こう言うのだった。
「今のお兄様は」
「どうしたんだい、義美」
「普段以上にです」
どうかというと。
「御見事に見えます」
「いつもよりもかい?」
「はい。何か輝いて見えます」
そうだというのである。
「いつものお兄様とは違う様です」
「同じだけれどね」
義正は妹のその言葉に少し笑って述べた。
「僕はいつもと変わらないよ」
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