201部分:第十五話 婚礼その十
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第十五話 婚礼その十
客人に顔を向けた。そのうえで今度は。
彼、その客人にこんなことを述べたのだ。
「私はこれまでです」
「これまでとは」
「公では言えないこともしてきてもいます」
「そうですね。それは」
「政治の世界にいて。いえ維新の頃は」
「あの頃は京都にいて」
「斬って斬られてでしたから」
幕末の風雲の時代に彼等は都にいたのだ。当時の都は佐幕派と攘夷派に分かれて血生臭い戦いを繰り広げていたのである。
伊上は長州の者としてそこにいてだ。その血煙の中を生きてきたのだ。
そのことについてだ。彼は客人に述べた。
「私も何人か斬っています」
「私もです」
「斬られもしましたし傷もあります」
これは山縣も同じだったという。彼にしろ当事京都にいた者達は無数の傷を負っているのが普通だった。何しろ命を賭けていたのだから。
そのことも話してだった。
「幾人も斬ってきました」
「そして維新になってからは」
「陰謀の世界にもいましたし戦場にも出ました」
「貴方は戦場を駆け巡りもされましたから」
「戊辰戦争に西南戦争」
そうした戦争にだ。参戦していたのだ。
「日清戦争にも出ました」
「日露でもでしたね」
「はい、加わりました」
とにかくだ。日本の重要な戦いには何時でも参戦していたのだ。
その過去を思い出してだ。そのうえでの言葉は。
「そこでも多くの死を見てもきましたし」
「しかしそれでもですか」
「幸せを信じています」
そうだというのだ。
「人は幸せになれるということを」
「左様ですか」
「はい、ですから二人には是非共です」
「わかりました。ではそうお願いされて下さい」
「そうします。間も無くですし」
微笑みだ。こんなことも話したのだった。
「二人の婚礼は」
「終わりでありはじまりは」
「そのことも見させてもらいます」
こう言うのだった。
「是非共」
「そうですか」
「この話はこれで終わりです」
伊上は話を終わらせた。そのうえでだ。
客人にだ。こんなことを提案した。
「ではこれからですか」
「これから?」
「何か召し上がられますか?」
客人にだ。食事を勧めたのである。その食事は。
「ステーキでもどうでしょうか」
「ステーキですか」
「はい、それはどうでしょうか」
「いいですね。実は私ステーキは」
「お好きですか」
「大好物の一つです」
客人は期待している笑顔で述べる。
「それではです」
「はい、では共に」
「そうさせてもらいます」
「そしてです」
ステーキだけでなくだ。さらにあるというのだ。
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