巻ノ百二十一 天下人の器その十
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「そして他の時も」
「常にじゃな」
「共にいてです」
「そのことがあって」
「どうしてもです」
実際にとだ、大野は秀頼に答えた。
「そのことは」
「そうであるな」
「兄上は」
治房がここで兄を見つつ秀頼に話した。
「そのことは」
「どうしてもじゃな」
「はい、ですから」
「大坂にはおらんな」
茶々を止められる者はというのだ。
「誰も」
「残念ですが」
「どうしたらよいか」
苦い顔で言うばかりだった、秀頼も。
「果たしてな」
「今に至りますし」
「どうしても」
「ご母堂様は」
「義祖父様から婚姻の申し出があったな、何度も」
秀頼もこのことを知っているのだ、それで今言ったのだ。
「そうであるな」
「はい、しかしです」
「ご母堂様は常に断られ」
「それも強く」
「その為にです」
「そうであるな、余も思うに」
秀頼は大野三兄弟にさらに話した、実は弟がもう一人末にいるが徳川家の下で旗本になっていて大坂にはいない。
「申し出を受けてな」
「前右府殿のご正室になっていれば」
「それで、ですな」
「万事上手くいっていた」
「そうであっただろう」
こう三兄弟に話した。
「やはりな、しかしな」
「残念ながら」
治房が言ってきた。
「その様にはなりませんでした」
「母上が断り続けてな」
「強くお勧めして」
「義祖父上のご正室になっていれば」
「何の問題もなく」
「大坂の民民も今の様にはならずな」
戦から逃げる様なことにもならずというのだ。
「そしてな」
「豊臣の家も」
「安心して大坂を出てな」
そしてというのだ。
「余は義祖父上にとってはじゃ」
「はい、孫姫様のご夫君であられ」
「しかも義理の子となります」
「血はつながってませんがこれ以上はないまでに強い絆です」
「それで豊臣も安泰だったが」
それでもというのだ。
「ことここに至っては仕方ないのう」
「はい、実は大坂に馳せ参じて来られる浪人の中には明石殿がおられますが」
「その明石という者は確か」
「切支丹です」
大野はこのことを話した。
「幕府が何としても認めぬ」
「それには確かな訳もあるな」
「太閤様の頃から」
まさにその頃からというのだ。
「ありました」
「そうであったな」
「あの者達は民を海の外に売り飛ばしたりします」
「そして奴婢として使うな」
「しかも教えを利用し」
民を害するだけでなくとだ、大野は秀頼に剣呑なものを語る顔で話していく。
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