巻ノ百二十一 天下人の器その九
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「そして父上がおられなくなってな」
「お傍にですな」
「常に前右府殿がおられ」
「そのうえで慈しんでくれた」
「そうでしたな」
「そのこと忘れられぬ」
決してというのだ。
「その時のことはな」
「それで、ですな」
「今もですな」
「前右府殿のことは覚えておられ」
「そのうえで」
「わかっておる」
家康が自分についてどう思っているのかをだ。
「余に奥との間に子をもうけてな」
「そのお子をですな」
「豊臣家の次の主として」
「大坂以外の国で国持大名となって頂く」
「無論お父上であられる上様も」
「その様にですな」
「そう考えておられる、そしてそれがな」
まさにというのだ。
「余に一番よいとな、しかしな」
「ことここに至っては」
治房が言ってきた。
「最早」
「そうじゃな」
「戦は避けられませぬ」
「そうなればじゃな」
「ご母堂様が」
即ち茶々がというのだ。
「止められませぬので」
「だからじゃな」
「はい」
こう秀頼に答えた。
「どうしても」
「余もじゃ、何か言おうとすれば」
秀頼も二十歳を超えている、それだけに分別は備えてきている。それにそもそも学識もあるし考えもある。
それでだ、こう言うのだ。
「母上はな」
「その前にですな」
「言われて」
「そうして」
「何も言えぬ」
大坂の主である筈の彼でもというのだ。
「残念ながらな」
「そして、ですな」
「今に至りますし」
「これからも」
「そうであろう、母上は余も止められぬ」
服の袖の下で腕を組み大野達に述べた。
「だからな」
「それで、ですな」
「このままもご母堂様が好きなだけ言われて」
「大坂は動きますな」
「そうなる、余が母上を止められれば」
秀頼は幼い頃に父の秀吉を亡くしそうしてどうしようもなくなっていた、そうしてこう言ったのだった。
「この様になっていなかったが」
「今申し上げても」
「それでもです」
「あの方のあまりにもご気質の強さを思いますと」
「そうじゃな、特に修理よ」
秀頼はここで大野、三兄弟の長兄を見て述べた。
「お主は母上にな」
「はい、それがしは」
実際にとだ、大野は秀頼に答えた。
「茶々様には」
「母上は大蔵局が乳母であられた」
大野の母の彼女がというのだ。
「その絆でじゃな」
「小谷でも北ノ庄でも一緒でした」
二つの城が落城したその時もというのだ、実際に大野はその命の危機がある時も茶々そして彼女の妹達と共にいた。
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