巻ノ百二十一 天下人の器その八
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「だからな」
「その銭はですか」
「民達に回せ。よいな」
「そこまで言われるのなら」
治房も主の考えをわかってだ、己の考えを収めそのうえで応えた。
「その様に」
「戦は一年もあれば終わるであろうしな」
秀頼はこうも言った。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「民達のことも忘れてはならん」
秀頼はまたこう言った。
「だからじゃ、わかったな」
「さすれば」
「ではな、そして戦はな」
「はい、そのことですが」
ここで大野がまた応えた。
「それがしが上様をお助けしましそして」
「天下の豪傑達がか」
「揃い」
そのうえでというのだ。
「戦いますので」
「わしはどうするか」
「ここで、です」
大坂城でというのだ。
「ゆうるりとです」
「見ておけというのか」
「そうされて下さい」
「主としてじゃな」
「左様です、十万の兵にです」
「天下の豪傑達が集まりじゃな」
「必ず勝てますので」
だからだというのだ。
「ご安心を」
「そうか、ではな」
「はい、全てはお任せを」
「わかった、そしてこれは言っておくが」
「何でしょうか」
「余は決して誰も恨まぬ」
秀頼はこうも言った。
「これまでもそうであったし今もそうであるしな」
「これからも」
「誰も恨まぬ」
こう言うのだった。
「よいな」
「誰もですか」
「お主達もそうであるし」
大野達に対して話した。
「無論義父上もじゃ」
「内府殿も」
秀忠のことだ、幕府では将軍であるが朝廷での官位は内大臣であるので大坂ではこう呼ばれているのだ。
「そしてですな」
「前右府殿も」
こちらは家康だ、今は源氏長者になっているが前の官位からの呼び名だ。
「あの方も」
「そう言われますか」
「義祖父様ではあるし」
それにというのだ。
「あの方はいつも余を案じてくれておる」
「はい、確かに」
大野もそのことをわかっていて言う。
「あの方は天下はご自身にあると思われていても」
「それでもな」
「奥方様のお夫君であられ」
「余が幼い頃随分と可愛がってくれた」
秀頼はその時のことを今も覚えているのだ、幼かったあの日々のことを。
「余がもの心ついた時に父上が身罷られた」
「残念ながら」
「そうなりました」
「上様もその時を覚えておられますか」
「太閤様が亡くなられた時を」
「うむ、忘れられぬ」
父の死、それは秀頼にとっても大きなことだった。幼い頃だったのでその時は何かよくわからなかったにしても。
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