人狩りの夜 4
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。館主である自分が退くのは客人の退席を見届けてから。
などという殊勝な心がけからではない。
操作盤に手を伸ばして新たな合成魔獣を、真の最後の一体を呼び出す操作をする。
貴重な魔鉱石をふんだんにもちいて造った、宝石獣を呼び出すために。
宝石獣。
帝国がひそかに行っていた合成魔獣研究の最高傑作で、様々な魔鉱石を掛け合わせて造った大亀型の魔獣。
その外皮は三属の攻性呪文が効かず、真銀と日緋色金以外のいかなる武器でも傷つけることができないとされる。
「レザリア王国への手土産か、オルランド鎮圧のさいの切り札として用意していた秘蔵の宝石獣。まさか盗人風情に使うことになるとはな」
先代から続く女王の弱者救済、福祉優先政策はクェイド侯爵のような人民の命を軽視する貴族たちや、保守的な富裕層、既得権益者たちから唾棄されていた。
この男は自国であるアルザーノよりもレザリアに傾いていた。
隙あれば反旗をひるがえし、帝都を我が物にすることを考えていたのだ。
宝石獣『タラスクス』はそのための決戦兵器。
たとえ高度な剣術と一通りの軍用魔術を修めた王室親衛隊――アルザーノ帝国軍の帝都防衛師団に属する、女王の警護を主任務とする帝国軍屈指の精鋭部隊であっても、一体で相手取ることができる目算だ。
この強力な存在は秘中の秘。たとえ人狩りの同士であっても知られるわけにはいかない。
「もしも本当に特務分室の者なら好都合。ここで女王の駒を潰しておくに越したことはないし、良い実戦データも得られそうだ。さぁ、いけ。タラスクス。思う存分荒れ狂え!」
天鵞絨の絨毯の上に怪物たちの屍が重なり、異臭を放っていた。
水晶の杯や銀食器。絹のテーブルクロスは怪物の体液にまみれ、贅を尽くした大広間は死屍累々の惨状と化していた。
「――消化器官がない。どんな食性をしているのだろうな、この生物は」
体の前半身がライオン、後半身がアリの姿をした異形の合成魔獣ミルメコレオの骸を検分する秋芳。
いにしえの賢者が書いた数多の博物誌や旅行記、図鑑や辞典。魔術学院の蔵書に幻獣魔獣を記した書物は多いが、さすがに本で知るのと肉眼で見るのはちがう。
「…………」
知的好奇心に駆られて合成魔獣の死骸を調べる秋芳とは異なり、沈痛な表情で怪物たちの屍の山にむかって黙祷を捧げるペルルノワール。
「俺たちの命を奪おうと襲ってきた怪物のためにも祈るのか?」
「彼らはみずからの意思で襲ってきたわけじゃないわ。魔術によって自然の摂理をねじ曲げられ、無理矢理この世に産み落とされたあげくに闘争の道具にされた、哀れな犠牲者よ」
「そのわりには、容赦がなかったな」
「殺さなければ、殺されていた
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