巻ノ百二十一 天下人の器その六
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「民達には一切じゃ」
「危害を加えぬ」
「そうしてはなりませぬな」
「何があろうとも」
「戦見物で出て来る民達もな」
本朝の戦では常だ、民達は近くで戦が起こるとそれを見に来るのだ。このことを咎める者は一人もいない。常識だからだ。
「一切じゃ」
「気にせずですな」
「姿を見せない様にする」
「そして見られてもですな」
「構うな、ですな」
「民は見ておるだけじゃ」
目の前で起こっている戦をだ。
「相手にも何も言わぬ、こっちにもな」
「だからですな」
「手出しすることはありませぬな」
「それも一切」
「放っておいていいですな」
「只でさえ戦から逃げておるし家も焼かれる」
こうしたことが避けられないからだというのだ。
「ならばな」
「ここは、ですな」
「これまでもそうでしたが」
「民達には構わない」
「それも一切」
「そうせよ。わかったな」
「はい」
周りの忍の者達も答えた、そしてだった。
彼等は大坂を見張り続けた、民達は次から次にと逃げ出そうとしている。秀頼はその様子を天守の最上階から見てだった。
傍らに控える大野にだ、こんなことを言った。
「民達が逃げていくのう」
「はい、戦を避けて」
「悲しいことじゃ」
こう言うのだった。
「この前まで夜でも城まで声が聞こえる程だったに。それにな」
「その民達を騒がせ戦を起こすことが」
「悲しい」
このこともいうのだ。
「あの者達がどれだけ難儀するかと思うと」
「そう思いますると」
「無念じゃ」
秀頼はこうも言った。
「実にな」
「それでこそ天下人。ですが」
「ここに至ってはな」
「避けられませぬ」
その戦をというのだ。
「最早」
「そうであるな」
「ですから」
それ故にというのだ。
「ここはです」
「覚悟を決めてな」
「戦いましょう」
「戦いそして」
「勝ちましょうぞ」
その戦にというのだ。
「何としても」
「わかった、しかしな」
秀頼は大野の方を見て彼に言った。
「余は戦は」
「これまでは」
「知らぬ、兵法の書を読み馬に乗ったことはあるが」
それでもというのだ。
「戦そのものはな」
「はい、ですから」
「今の様にじゃな」
「天下から浪人達を集めております」
そうしていることをだ、大野は秀頼に話した。
「その数十万に至ります」
「十万か」
「はい、これだけの数があれば」
あえて強くだ、大野は秀頼に話した。
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