巻ノ百二十一 天下人の器その五
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「おそらく茶々殿は今戦のことしか考えておられぬ」
「そして勝つと」
「そのことだけをですな」
「考えておられ」
「民のことなぞもう」
大坂城、彼女がいるその城の周りにいる彼等のこともというのだ。
「一切ですな」
「考えておられず」
「そしてですな」
「お目にも」
「入っておられぬわ」
見れば大坂の城の動きは周りの民達と同じく慌ただしい、だがそれは戦への備えに対してであり逃げる為ではなく民達を見てもいなかった。
「わかるな」
「どう見ましても」
「もう兵達ばかり見ていて」
「そしてです」
「民達のことは」
「皆戦に巻き込まれぬ為に逃げようとしているのに」
「それを一切見ておられませぬ」
城の動きからもそれは明らかだった。
「民達も誰一人城に入りませぬ」
「逃げる先を他に求めています」
見れば誰も城に助けを求めていない、皆山の方に逃れてそのうえで難を避けようとしている。
「民達の心も豊臣家にはない」
「そうもなっていますな」
「それに誰も気付いていない様ですが」
「大坂の民達は」
「しかし動きに出ておる」
その民達の心がというのだ。
「はっきりとな」
「それが見える様では」
「最初からですな」
「天下人になり得ていない」
「そういうことですな」
「そうじゃ、豊臣家は既にじゃ」
まさにというのだ。
「天下人でなくなっておるのじゃ」
「太閤様一代でしたか」
「所詮は」
「そうした家でしたか」
「大納言殿がおられてな」
秀長、彼がというのだ。
「そして関白様がおられれば、せめて関白様がな」
「おられれば」
「豊臣家は天下人でいられた」
「左様でしたか」
「そうであった、しかし右大臣様だけでは」
秀吉が死んだ時にまだ六歳だった彼がだ。
「ご幼少では何も出来ぬ」
「それでは実質的な主は茶々様となられ」
「その茶々様があれでは」
「もう、ですな」
「豊臣家は天下人ではないですな」
「そうじゃ、我等は今それをはっきりと見ておる」
その目でというのだ。
「豊臣家が何故天下人でなくなったのかをな」
「民が見えていない」
「目の前の民達ですら」
「それではですな」
「天下人ではありませんな」
「この戦は幕府の勝ちじゃ」
服部はこうも言った。
「はっきりわかるな」
「はい、実に」
「あの有様ではです」
「例え大坂に百万の兵がいようとも」
「幕府は勝ちます」
「必ず」
「よいか、我等にその理由もないしじゃ」
服部は忍の者達に強い声で告げた。
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