巻ノ百二十一 天下人の器その四
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「何もわかっておられずご存知ないうえでな」
「それ故にですな」
「あくまで天下人として大坂におられ」
「今の状況を招かれた」
「戦を」
「それでどうして天下人か」
服部はこうも言った。
「民を無闇に巻き込んでな」
「全くですな」
「あの方はその時点で天下人の器ではない」
「そうなりますな」
「民を無用な戦に巻き込んだ時点で」
「天下人は地位や誇りでなるものではない」
服部は言い切った。
「そこに心があってこそじゃ」
「天下人の心が」
「それがあってこそですな」
「天下人になれる」
「そうしたものですな」
「室町幕府を見よ」
先の幕府をというのだ。
「六代殿はどうであられた」
「あまりにも暴虐で酷薄で」
「観闇に血を流され」
「そして、でしたな」
「遂に赤松家に弑されました」
「あの方には誇りも地位もあられた」
そして力もだ、義教には確かにそうしたものは全て備わっていた。この頃はまだ室町幕府もそれなり以上の力があったのだ。
「だがな」
「お心がなかった」
「あまりにも暴虐で酷薄であられ」
「血を流され続けた」
「そうした方だったと言われていますな」
「天下人には仁の心も必要じゃ」
まさにその心がというのだ。
「しかしな」
「室町の六代殿には仁がおありでなく」
「そしてそれ故にですな」
「次は自分と思われた赤松家に弑された」
「そうなりましたな」
「そうじゃ、室町の六代殿は仁がなく」
そしてというのだ。
「茶々殿はな」
「誇りばかりであられ」
「民のことも目に入っておられぬ」
「そうした方ですな」
「民は去る」
戦から逃れる為にというのだ。
「そこではっきりと見るわ」
「大坂からですな」
「豊臣家が治めるべき民が」
「民達が去りますか」
「そして残るのはな」
民達が去ってというのだ。
「何があるか」
「何もありませぬな」
「大坂の城と兵達は残りますが」
「そうしたものだけです」
「肝心の民がおらぬ」
「そうした家になりますな」
「民が去り何の天下人か」
腕を組み忍の覆面の中で瞑目しつつだ、服部はこうも言った。
「天下人は民を、天下を治めるものじゃ」
「切支丹のこともですな」
「あの者達は国も民も脅かします」
「だから幕府も禁じたのですが」
「それでもですな」
「茶々様はわかっておられぬ」
「それはないと勝手に思い込んでおられますな」
伊賀者達も口々に話す。
「あの方は」
「全く以てなりませぬな」
「あの方は、そして豊臣家はもう」
「天下人足り得ませぬな」
「その心がないからじゃ」
服部はまたこう言った。
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