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愛犬と占い師
愛犬と占い師
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んでいると、横に寝そべっていたセシルが、急に立ち上がり何もない虚空に向かって、前足を激しく上下させた。普段、ほとんど吠えないのに、まるで彼女には姿が良く見えているかのように、何度も激しく吠える。後ろ足の間に尾を丸くして入れているのを見ると、よほど怖かったに違いないと思った。
不審に思い、私はその虚空に向かって両手で気を送ると、微かに何者かの存在が感じられる。背中の産毛が総立ちする位の恐怖を感じた為、和室に敷いてある布団を頭から被って、この場に漂う妖気からイナイ、イナイシヨウトシタ。
十分程でセシルが吠なくなったので、布団から顔を出して辺りを怖々見渡したが、何も異常らしき様子は感じられない。
翌朝、普段通りセシルの餌と水とぬいぐるみとトイレの準備をし、身だしなみを整えると、昨夜は何もなかったように店に行った。
悩んでいるより、女子高生、若いOLの顔を見ている方が、よほどストレスを溜めなくて良いと思えたからだった。案の定、占いがこんなに楽しいと思ったのは、初めてであった。
一週間は、何ら異変もなく,あの夜だけに特別生じた一過性の悪夢だったのだろうか?
ところがそう思い始めた頃だった。夜十一時頃、風呂場でジャグジーを使い全身を癒そうとしていた時、湯船の中から何とはなしに出入り口の曇りガラスを見てしまった。
髪の長い女性の影が、スーと玄関から奥のリビングに移動したように感じた瞬間、先日にも増してセシルが猛烈に吠え出した。
身体を拭くのももどかしく、裸でリビングへ飛んで行くと、空間に髪の長い女性がボーと浮かんで横を向いている。どこかで会ったような気がした。なおもその女性の姿を観察していると、二十分位漂っていたが、やがて視界から消えてしまった。
それ以来毎晩十時頃になると、リビングの空間に、髪の長い女性が三十分程無言で浮かぶようになった。
鬱が進行したのだろうか、何を考えるともなくぼんやりTVを観ている生活が続き、仕事にも出ないでマンションに引きこもり、
(自分は何の値打ちもない人間だから、もう死ぬしかない!)
とさえ思えてきた。
愛犬セシルの行く末が気にはなったが、日を追う毎に自殺願望が強くなり、マンションから鷹のように飛んでみたい欲望が、心の底から沸々と湧き出してきた。
毎晩七時きっかりに現れて、五時間程、髪の長い女性はリビングの空間にボーと浮かんでいるが、不思議な事に、今ではセシルが尾を激しく左右に振り、何かをねだるような鳴き声を出している。

十九階のマンションから、地上までのほんの数秒間で、全ての謎が解けたような気がした。
最近、二重人格の一方の女性が存在を主張し出した。女性が実体化しようとし、男の私を殺して自分がこの世に現れようと……。

何よりもセシルの事が気がかりで、私は、自分のマンションに帰ってきて、リビングの空間
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