SS:シンガーの歌が運ぶのは
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りを見た。ヨルコとカインズは泣いていた。でも、多分その涙は俺の感じたものとは全く別の解釈で、つまりは別解。グリムロックさんは歌は聞こえていたけれど、それが頭の中で断片的にしか感じ取れていないのか、意味のある表情はしてなかった。
頭の中で構成された俺の歌は、俺の解釈と歌詞と一致していて、でも一致していない。まさにどうとでも取れる解釈の中の一つを俺は思い描いただけだ。それを他人がどう感じようと、違うも違わないもない。その人にとっての答えがそれだからだ。
だけどこの時俺はどうしても、その歌がグリセルダさんの遺した言葉のような気がして。
多分、一生に一度あるかないか、俺は歌詞の解釈をグリムロックさんに伝えた。
「グリセルダさんは変わったのかもしれない。でも、一人だけ変わって貴方が付いてきてくれなかったの、寂しかったんじゃないかな……」
「寂しかった………?ユウコが……馬鹿馬鹿しい妄想だな。碌に話もしたことはないのに、どうしてそんな突拍子もない事が言える?」
彼は悟ったような、しかし俺みたいな奴から言わせれば何もかも分かった気になって自分に閉じこもっているような態度で、吐き捨てるように言った。
「確かに、本物の夫婦だったあなたに比べれば俺とグリセルダさんの接した時間なんてほんの一欠程度だろうけど……あんた自分で言ったろ。一緒に踊って欲しいって言われたって、恋ダンス」
「そんな事を、言い出す女じゃあなかった……」
「違うよ。自分が変わって、違う景色が見えたんだ。だから夫のあんたにも同じ景色を見てほしくて、一緒に変わろうって手ぇ差し伸べてたんだよ。先に一歩進んでたかもしれないけど、グリセルダさん言ってたぞ」
一度言葉を止め、その時の事をなるべく鮮明に思い出し、言葉にして吐きだす。
「……『旦那と一緒に聞けないのが寂しい』って、さ。好き同士だったんだよ、貴方たちは」
「あ…………ああ……あ、あ」
グリムロックさんは、牢屋の中で崩れ落ち、頭を押さえながら嗚咽を漏らし始めた。
……アスナは事件が露呈した時、自己を正当化するグリムロックを「愛じゃなくて独占欲」と断言したらしいけれど、俺は今、それだけじゃなかったんじゃないかな、と感じる。
「ユウコぉ………ユウコぉ、何で……寂しいんなら私の隣にいてくれても、良かったじゃないか………歌って踊る事が変わることだったんなら、何で私は……何で………」
言葉足らずで寂しがり屋。
きっとあの人とこの人は、とても似た者同士のお似合いの夫婦だったんじゃないか。
でもSAOになって、何かずれて、掛け違えて、伝わらなくて、拗れて、こうなってしまった。
「グリムロックさん。今すぐにとは俺には言えないけどさ………貴方の愛が本物だったってんなら、せめて変
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