SS:シンガーの歌が運ぶのは
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夫婦だったそうだが、SAOに順応して変わっていくグリセルダさんを受け入れられなかった旦那さんは奥さんを人殺しプレイヤーに頼んで暗殺させたらしい。その事件の真相はキリトとアスナが暴いたそうだ。
変わっていく大事な人が怖い――か。
俺は怖いとは思わなかったが、あの二人がSAOという世界のプレイヤーと言う役割を得て遠くへ行ってしまい事に一抹の寂しさと喪失感は感じた。俺も「変われなかった側」。そういう意味ではグリムロックって人と変わらない。
ただ敢えて違うところを挙げるならば、ホトトギスをどうしたか。
グリムロックさんは、思い通りにならないホトトギスを射てしまった。
俺はというと、ホトトギスが籠の外へ飛んでいくのをただ見ていただけだ。
俺は信長にも秀吉にも、まして家康にだってなれやしない凡庸な男だ。
ただ、そんな俺の気持ちまでもを受け入れてしまう歌があって、俺はそれをギターをかき鳴らして歌った。それで俺は孤独にも押し潰されず、自分を見失うこともなかった。音楽の中にある俺の好きな事を幾度となく見つめ直した事で、俺はそれに寄り添えたのだ。
夫婦だったら、二人は寄り添えなかったのだろうか。
それは歌なんかよりもっと明確に近くにあって、暖かかった筈なのに。
物質的に存在しない歌詞よりリアルに、鼓膜と声でやり取り出来た筈なのに。
俺は少し考え、提案した。
「歌は歌うけど、それならグリムロックさんにも聞かせよう。約束では全員で、だろ?仲間外れはよくないよな」
「仲間って……あんな自分勝手な理由でグリセルダさんを殺したあいつを!?」
「終わりは最悪だったかもしれないけどさ。始まりはあった訳じゃないか?恋か、愛か、人間の心なんてすぐ変わっちゃうけどさ……始まりの気持ちは嘘ではないと俺は思うんだ」
「しかし、今のあいつが歌なんてまともに聞くか……いやそもそも、あいつは牢屋の中なんだぞ?」
「そ。だからさ、牢屋行こうよ」
そう言って、俺は慣れない手つきで指を動かし、アルゴから貰った転移結晶を三つ取り出した。
= =
嘗ての栄光を失ったアインクラッド解放軍は随分とガラが悪い集団になっちまったが、俺は最初期メンバーのキバオウに一応は認められた存在って事になっている。軍だって悪いだけの連中じゃなくて、根底には歌を楽しんだりする気持ちが存在する。そこを知り合えれば、人にだって少しは優しくなれる。
そんな気持ちを提供している形の俺の要求はあっさりと通り、俺たちは今牢屋の前にいる。
「君は、誰だね?それに懐かしい面が二つ。私を嘲笑いにでも来たのか?」
「奥さんと約束してたんだろ?俺のライブ聞きに来るって」
「ライブ……ライブ………あぁ、聞いた気もする。随分と懐かしい歌
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