巻ノ百二十 手切れその五
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「わしは右大臣殿の命は狙わぬ」
「決してですな」
「あの方のお命までは」
「決して奪わぬ」
「そうされますな」
「約束したからな」
だからだというのだ。
「太閤殿と」
「約は守らねばならぬ」
「何があろうとも」
「それが幕府ですな」
「幕府の政ですな」
「わしは昔から律儀と言われてきた」
天下の律儀殿、実際に家康がこう言われていて天下から人望を集めていたのである。例え謀を使ってもだ。
「だからな」
「このこともですな」
「決してですな」
「約を違えぬ」
「左様ですな」
「そうじゃ、約を守りな」
そしてというのだ。
「右大臣殿はな」
「お命を奪わず」
「戦になろうとも」
「最悪でもですな」
「暫く幽閉ですな」
「戦の流れ次第じゃが」
それによるがというのだ。
「最悪暫く高野山に入りな」
「それを罰として」
「そしてですな」
「やがて赦し」
「そのうえで」
「大名に戻す、わしは大坂が欲しいのじゃ」
とにかくこのことは年頭にあった。
「豊臣家は構わぬ」
「はい、大坂は天下の要です」
崇伝も言ってきた。
「まことに。ですから」
「幕府の政に必要じゃな」
「その通りです」
「そうじゃな、しかしな」
「豊臣家につきましては」
「大坂城におるから問題でな」
「大坂城から出てしまえば」
「何のことはない」
力もかなりなくなるというのだ。
「だからな」
「大坂さえ手に入れば」
「やはり豊臣家はどうでもいい」
「例えるならば」
崇電がここで言うのはというと。
「太閤殿にとっての織田家」
「まさにそれじゃ」
「左様ですな」
「茶筅殿はああした方であったからな」
家康は信雄のことも話した、信長の次男で信長の亡き後織田家の実質的な主となっていた彼のことだ。
「改易となったが」
「我等はですな」
「あそこまでせずな」
「改易にもせず」
「前の天下人の家としてな」
「立てていおきますな」
「宋を見るのじゃ」
異朝の話もした。
「太祖は前の主を大事にしておったな」
「後周ですな」
「あの国の家を大事にしてな」
そうしてというのだ。
「宋が続く限り厚遇しておったな」
「あれこそがまさにです」
「徳じゃな」
「はい」
その通りだとだ、崇電は家康に答えた。
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