第二章 俺たちの、アニメだ
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「万人と結婚出来るが、一人とすら結婚出来ないもの……とかは」
「うーん。じゃあ、じゃあ……無料で合法なドラッグ」
「まあ、実際のところ相当な金はかかるが、想うこと自体は無料だからな」
山田定夫と、八王子こと土呂由紀彦は、学校の廊下を歩いている。
都立武蔵野中央高等学校。
名前の通り、東京都武蔵野市にある高校だ。
JR三鷹駅から、都営バスで十分ほどのところにある。
「魂の咆哮」
「えー、それは『なんぞや』ではなく、単なるキャッチコピーじゃない? じゃあ……地殻変動による科学変化」
「精神の輪廻」
「自己の再生」
「水の鏡で『水鏡』」
「萌えとはなんぞや」という理屈を論じていたのに、いつの間かイメージを表すフレーズ合戦になってしまっていた。
まあええわい、と構わず言葉のラリーで打ち合いを続けていると、
「イシューズだ! うつるよっ!」
女子生徒の集団が、眉をひそめてこそこそひそひそ。廊下の片端に窮屈そうに寄って、肩を縮めながら、定夫たちとすれ違った。
二歩、
三歩、
定夫は、なんとはなしに後ろを振り返ってみた。
女子生徒たちも何人か、歩きながら振り向いてこちらを見ていた。
一人と、視線が合った。
ひっ、とその女子は息を呑むと、一人足早に逃げ出した。
「待ってよ!」
「やだ、もう、ほんと、あいつら!」
「きもっ」
残る女子生徒たちも、小走りで後を追った。
北風が吹き抜けた。
ここは建物の中で季節は初夏だが、定夫の心の中に。
定夫、八王子、いまここにいないがトゲリン、この三人は、女子生徒たちから、キモオタスリー、イシューズ、などと呼ばれ、忌まれ、疎まれている。
キモオタスリーは意味聞くがごとしで理解出来るが、イシューズがなんなのかさっぱり分からない。
女子に直接聞こうにも聞けない。
犬のクソ食って下痢して死んだ方がマシというくらいの、あからさまな嫌悪の感情をぶつけてくる相手に、聞けるはずがない。
仮にそこまで嫌われていないのだとしても、女子にどう話しかけてよいのかなど分からない。
この高校での女子との会話など、「ほいプリント」「山田、キレッチョが職員室こいって」くらいしか記憶にない。会話というより、一方的に言葉を受けただけか。
八王子も同じようなことを考えているのか、お互い無言になり、それがなんともいえない気まずさを生み出していた。
そのような中、さらに追い打ちをかけるような出来事が。
さらに、というか、またもやというか。
「ギャアーー、イシューズだっ!」
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