井上 慶介
第一章 禁じられた領域
第三話 信用と利用
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
謎のフードの人物に連れられ、逃げ込んだ先は何処かの廃ビルだった。
廃ビルとは言っても最近倒産したばかりの会社で、内装自体はとても綺麗である。
だが鍵が壊されており、中には誰でも入り放題だった。
「ここは俺の隠れ家だ。好きに使ってくれ」
コートの男はそう言いながら、上着を脱ぎだす。
流石に暑かったのだろう、コートの中は汗でビッショリだった。
シワだらけの顔に、右眼の傷。
温和そうな表情だが、気を抜けない緊張感を持っている。
「檜山だ。この界隈で、情報屋をやってる」
煙草を取り出した檜山は、何の断りも入れず吸い始めた。
特に煙草が苦手という訳ではなかったが、常識の無い態度に苛立ちを覚える。
「お前の名前は?」
ライターに火を点けながら、檜山が問いかける。
終始無言を貫こうとしたが、頭の中で少し引っかかる事があった。
「喜瀬って奴、知っとるんか?」
「名乗りもせず、情報仕入れよう言うんか。ふぅん……若いくせに度胸あんじゃねぇか」
檜山は近くに転がるパイプ椅子を引っ張り、井上の前に置いた。
自身の分も用意し座ると、つられて井上も椅子に腰掛ける。
立ち上る煙草の煙を見つめ、檜山は笑った。
「俺は昔、近江連合の直系組組長をやってた。その座を退いてから、あいつに会ったんだ」
あいつは、もちろん喜瀬を指していた。
極道者とは思えない、バンダナの男。
獣の様な、飢えた眼。
今更になって井上は、恐怖に身を包まれる。
「あいつは、武力で東城会をのし上がった男だ。まだペーペーなお前が対抗したって、命投げ捨てるだけだぞ」
「……うるせぇよ、じいさん」
虚勢を張っているのは、丸わかりだった。
井上の身体は恐怖に震え、声も少し上ずっている。
だが、東城会に復讐するその想いはそれでも消えなかった。
まだ3口程しか吸っていない煙草を足元に落とすと、檜山は力強く煙草を踏みつける。
「どうだ?俺と取引しないか?」
それは、突然の提案だった。
怪しい話に思わず睨みつける井上だが、檜山は表情を崩さない。
「お前にも有益な話だ。東城会崩壊の鍵が、手に入るかもしれねぇからな」
東城会崩壊の鍵。
井上にとって願っても無い話だが……
「どうして俺が、東城会崩壊させたい事を知ってるんや?」
檜山はまた、怪しく微笑む。
会って数十分しか経っていないのに、既に檜山の事が嫌いになりかけていた。
「隠してるのは、お前も同じだろう?さぁ、手を組むか組まないか……」
「決まっとるやんけ、アホ。俺は東城会破滅させるんやったら、何でもやるわ」
家族を奪った、東城会への復讐。
それは今の井上にとって、生きる価値のあるもの。
その言葉を聞いた檜山は立
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ