幕間の物語:スリーピング・ナイツ
第二十一話:最期の願い
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。だからこそそれは正真正銘、最期の力なのだろう。一歩踏み出し、よろける。慌てて支えようと立ち上がるが、しかし彼女は自力で踏みとどまった。
「ここは、私の、居場所でした。とても暖かい、安らげる場所……」
オレは跪き、頭を垂れ、瞳を閉じた。手助けは不要、そう彼女の背中は語っていた。
一歩一歩、よろけながら、しかし確実にユウキに近づいていきながら、ランは背中に吊った剣帯を外した。その時には彼女を包む光は全身を覆っていた。
「コレを、貴女に託します。どうか末永く、皆が生き続けることを祈って」
ユウキが両手を差し出し、ランはその手に剣を預けた。絶剣の象徴たる、マクアフィテルと銘付けられた黒曜石の剣だ。
「私は、生きたんですね。確かに、ここで」
ランは微笑み、燃えるような夕焼けを見上げる。自分が生きた世界を、目に焼き付けるように。
「うん。私は、確かに、」
――幸せ、でした。
彼女を包む光はやがて大きくなり、そして、夕焼けに染まる空へと昇っていく。
皆が溢す涙と嗚咽だけが、その場に残った。
† †
意識が覚醒する。その直後にアミュスフィアを頭から毟るように外し、追いかけてくるユウキと共に部屋を出た。
ラン/藍子をこれまで外界から守っていた無菌室の扉は、開かれていた。
「…縺君、木綿季君。すまない、見ての通りだ。せめて最期に、彼女に会ってやってくれ」
「……はい」
倉橋さんに通され、オレと木綿季は藍子が眠っている枕元に立った。薄っすらと、彼女の瞳が開く。屈んだ木綿季の頬に手を添える。何よりも愛おしい妹に、最後の言葉を伝えるために。
「ゆう、き。貴女を、愛してる……どうか、私の、分まで」
「うん、うん…!姉ちゃんの分も、きっと生きるから。絶対、幸せになるから…!」
姉妹が寄り添う姿を、オレはどこか遠くから眺めているような気分に陥っていた。こんな時にまで、オレはくだらない疎外感を覚えていたのだ。
「にい、さん」
藍子の呼ぶ声に、意識を引き戻される。震える足で、彼女の下へ。
「私ね、兄さんが、帰ってきて、くれて……本当に、嬉しかった、の」
視界が、涙で覆われる。ぐしゃぐしゃになった景色を、彼女の顔を直視するために、涙を振り払う。
「ね、もう少し、顔を、近づけて…」
藍子に言われた通りに、顔を近づける。すると、余りにも細い彼女の手がオレの頬に触れた。
そして次の瞬間、彼女の唇が、オレの額に触れていた。
「どう、か。自分を、責めない、で。貴方を責める人、なんて……誰も、いないの、ですから」
「私も、こんなにも、貴方が、大好き、なんですから…」
――――私の、愛
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