幕間の物語:スリーピング・ナイツ
第二十一話:最期の願い
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正面からの特攻。着弾予測、ほぼ同時――否、左右比較して右がコンマ数秒早い着弾だ。続けて左、最後に――
「『白鷺』」
――左右の短剣よりも速い弾速で、兄の左手から最後の短剣が放たれた。直線軌道のそれは恐らく最も到達が早い。計算が狂う。
思考している暇は、ない。
「くっ!」
なんとか正面の一矢を上空へ弾き返す。崩した体勢を修正する間が惜しい。次、右の短剣を叩き落し、そのまま体を捻り左の短剣を打ち上げ――
「終わりだ…!」
いつの間にあの距離を詰めたのか。剣の届く間合いには、既に振り下ろされる漆黒の刃。
間に合わない?
――『否!』
「まだ、終わりじゃない!」
間に合わせる。
脳の処理に体が追い付かず、華奢なアバターが霞む。それでも間に合うと自分の剣を信じた。兄の全力の一撃を防ぐのだ、こちらも全力で、いやそれ以上で向かわなければ届くはずもない――!
「ぅっ……!!」
右腕から伝わった衝撃は痺れに変わり、全身を駆け巡る。なんと力強い一撃だろうか。正真正銘、この戦いを終わらせに来た一振り。
それでも、間に合った。
「――『霙白鷺』を初見で破ったのは、お前が初めてだよ。藍子」
「ふ、ふふ……嬉しいですね、それは…くっ」
『霙白鷺』――。
それは恐らく不可避の四連撃。ただの一度も破られたことのない剣術を、自分は初見で防ぎ切った。それが誇らしくて。けれど防戦一方な状況に悔しさも感じる。
まだ足りない。兄の記憶にこの剣を深く刻み込むには、まだ不十分だ。
「今度は、私の番です…!」
力尽くで兄の剣を押し返し、一度距離を取る。刹那に詰められそうなその距離を、しかし兄は一歩を以て詰めようとはしなかった。ただ剣を構え、待っている。
背筋が震える。これまで感じたことのない高揚感。この世界で三年間ずっと積み重ねてきた全て――紺野藍子という存在証明を、今、目の前の最愛の人に向けて放つ。
「マザーズ――」
右手の愛剣に剣気を集中させる。この世界に、SAOのようなソードスキルは存在しない。だからこそ創り出せた、『己だけのソードスキル』。システムのアシストなど無粋である。この剣技は、魂を以て放つのだから。
「――ロザリオォッ!!」
紅桔梗色の剣気が吹き荒れる。剣のみに留めていたその覇気は主の昂りによって高められ、そして全身を覆うに至る。
(あれは――、翼?)
やがて翼を宿した黒曜石の剣が、既に己の心臓を捉える距離にまで迫っているのをレンは遅れながらに悟る。
絶剣を絶対不敗たらしめる代名詞として名高い『マザーズ・ロザリオ』。だが、この世界に来て日が浅いレンにとって、それは未知の剣技。否、ここまでの輝き
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