幕間の物語:スリーピング・ナイツ
第二十一話:最期の願い
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隙が生まれた。ランが振り切った腕を戻すよりも、レンの脚が彼女を蹴り飛ばす方が早い。
「驚いたな。まさか、ここまでとは」
「ふふ……兄さんを驚かせたくて一生懸命戦ってきたんですから」
「ああ…本当に驚いた。だが、負けるつもりはないぞ」
「ええ。そうでなくては」
妹が忌んでしまうというのに、この体はそんな事お構いなしに昂っていく。純粋な剣技で己に追い縋るその強敵に、どうしようもなく歓喜している。
「行くぞ」
否。今考えるのは愚かしい自らの性ではない。如何にランを打倒するか、如何に彼女の望みを叶えるか、だ。
沸き起こる自己嫌悪を押し殺し、新たに三本の短剣を左手の指間に挟み込んだ。
† †
何をするつもりなのか。
目の前で三本の短剣を手にした兄を注意深く観察する。
これまで、様々な世界で多くの敵と戦ってきた。最初は誰に対しても手も足も出なかった。当たり前だ。戦いとは無縁の生活を送ってきた藍子にとって、一対一の戦闘なんていきなりできるものではない。それでも、観察し、見極め、繰り返し、そして勝利を積み上げてきた。
最終的についた字は『絶剣』。絶対無敗の剣。それが何よりも誇らしく、それがまるで自分の生きた証のように感じた。
それで満足だった。そのはずだった。
けれどある時、己の兄を閉じ込めた監獄は、『剣の世界』であることを思い出した。
不器用でも、義理の妹に対して優しくしてくれた。藍子と木綿季がHIVキャリアだと判明した時は、単身で保護者会に乗り込んでいったとも聞いた。そんな、何よりも愛おしい兄。そんな兄が惹かれたのが、剣だった。
いつしかもう残り少ない命に、『兄と戦ってみたい』という欲求が沸いた。
これが最後の願いなんて、我ながら酷いことをするものだと思う。今にも決壊しそうな兄の心境は、剣を通して伝わってきた。
それでも、この身は、この心は、紺野縺の妹らしい。
『この戦いが、楽しくて仕方がない』
絶剣と恐れられるこの剣を上回る剣士に、否応なく胸が躍る。
だから。だから、邪魔はしてくれるな。あと少し、せめて決着がつくまで、私に生きさせてください。
「護神柳剣流『霙』」
過去の記憶を総覧。
知らない。
そのような剣技は聞いたこともない。
だからこそ、命が、魂が燃え上がる。未知の剣技を前にして、臆するなど勿体ないではないか。
さあ、全ての挙動を見逃すな。筋肉の収縮すら見極め、そして、その剣技を制して見せようではないか。
一瞬で姿勢を落とした兄が地面を蹴り、同時に左の腕が二度振られる。その手からは既に三本の短剣の内二本がなくなっていた。左右から弧を描きながら迫るのがそれだ。残る一本と兄あ
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