幕間の物語:スリーピング・ナイツ
第二十一話:最期の願い
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ランを除いたスリーピング・ナイツでの会議が一段落ついた頃、寝室からランが現れた。
驚く全員に対して微笑みかけると、言ったのだ。
「兄さん、私と――――」
『戦ってくれませんか』
その願いに、どう答えればいいかオレには分からなかった。彼女の言う通りならば、その命は風前の灯火。戦うなど以ての外だ。医学の道を志す者として、いや、兄として、それは断じて許してはならない。
けれど。
レンという存在に深く刻み込まれた戦いへの欲求が、そして、兄として義妹の最期の願いを叶えてやりたいという思いが、胸の中で複雑に入り混じっていた。
「私、見たいんです。兄さんの物語を。ただ聞くだけじゃなくて、その剣で、魅せてほしいんです」
ああ、もう。本当に、どうしようもない。
この健気な少女に、守ると誓った妹に何もしてやれない自分に、酷い嫌悪感を抱く。
ここは妖精と魔法の世界。あの鉄と剣の世界とは違う。
それでも、ここにいるオレと、あの世界で生きたレンは同じであるはず。
だから応えよう。その願いに、全霊の剣技を以て。
「私は、兄さんの物語の中で逝きたい」
どうしようもなく哀しい願いを、聞き届けよう。そうすることでしか、彼女を満足させてやることができないのだから。
† †
一言で表すならば、そう。
それは、とても虚しい戦いだった。
互いが得るものなど何一つとしてない。対し、その戦いの果てに、一人の尊い命が失われようとしている。
それでも、この戦いをだれも止めようとはしなかった。
止められるはずがないのだ。これは謂わば最期の願い。叶えてやりたい思うのは、仲間として当然のことだった。
「ふっ!」
少女が放った鋭い一撃を、少年はそれよりも鋭いカウンターで叩き落す。
かつて剣の世界で英雄と謳われた少年は、紛れもなく全力であった。あの崩れ行く鉄城での最後の戦いと比較しても、剣術の質で言うならば、今回の方が上を行く。
少女の願いの通り、彼の人生で培ってきた全てを総動員していた。
(やっぱり、この程度じゃ兄さんには適いませんか……なら――!)
「っ!」
少女の剣筋が変化したのを、レンは素早く察知した。
人体の中心、急所の一つ、鳩尾を的確に狙う刺突。それを寸でのところで剣を滑り込ませて防ぐ。少年の表情に、焦りが生まれた。
先ほどまでは鋭い斬撃が主体だったランは、今は突きを多用している。細剣を得物としていたアスナほどの練度はないが、それでも刺突の合間に織り込まれる斬撃が、レンに次の手を読ますことを許さない。
黒漆の剣身が、咄嗟に反らした首を浅く滑っていく。
「……ッ!」
だがそれにより僅かな
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