後編 懐かしい香り
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その言葉を最後に、リビングを今度こそ立ち去った彼は――シャワー室に降り注ぐ雫を、一糸纏わぬ自分の体に浴びる中で、ある「決断」に踏み切るのだった。
(……ならば、僕も。自分が正しいと思う道を、信じます)
厳かな面持ちで、鏡に映る自分と向かい合う彼は――甲侍郎の云う「誰かに過ちを正される」時まで、自分の本心に従うことに決める。
そして、この日から三年が過ぎた二◯二七年十二月。
日本のとある小さな町で彼は――その「過ち」を正す少年と、運命的な出逢いを果たすのだった。
◇
――二◯三五年、八月。
古我知剣一、二十八歳。
(……あれから、色々なことがあった。多分、これからも……だろうな)
彼の数奇な運命は、巡り巡って彼をこの時代へと導いていた。
――二◯二七年、当時二十歳。
救芽井家に謀反を起こし、救芽井甲侍郎と救芽井華稟を誘拐。日本まで逃走し、追いかけてきた救芽井樋稟を返り討ちにするも、松霧町で出会った拳法家の少年・一煉寺龍太との戦いに敗れ、捕縛される。
――二◯二九年、当時二十二歳。
元総理大臣・伊葉和雅と救芽井甲侍郎の指揮下のもと、両親の仇でもあるテロリスト・瀧上凱樹と対決。一煉寺龍太と共闘し、撃破に成功。以降、伊葉和雅に随伴して、瀧上凱樹に滅ぼされた砂漠の国「ダスカリアン王国」の復興支援に乗り出す。
――二◯三◯年、当時二十三歳。
ダスカリアン王国の将軍ワーリ=ダイン・ジェリバンとの決闘に敗れ、一煉寺龍太に代わりを託す。そのさなか、エルナ・ラドロイバーの暗躍が判明し、彼女と戦うことに。性能差に圧倒され完敗したが、ラドロイバーは二段着鎧を会得した一煉寺龍太により倒された。
――二◯三一年、当時二十四歳。
一煉寺龍太と共に、ダスカリアン王国へ渡り復興支援を再開。矢面に立たされる彼へのサポートに回る。
――二◯三四年、当時二十七歳。
託されていた任務を果たし、日本へ帰国する一煉寺龍太を見送った。以後一年間、彼の穴を埋めるべく治安維持に加わった「鉄拳兵士」こと真壁悠の後見人を務める。
そして現在、二◯三五年。
ダスカリアン王国での勤務の中、ワーリ=ダイン・ジェリバン将軍から与えられた休暇を使い、彼は故郷である日本の東京へと足を運んでいた。
アスファルトと建物で隅々まで埋め尽くした大都市を、真夏の陽射しが覆っている。熱を帯びた地面の影響で、道行く人々の視界は蜃気楼のように揺らめいていた。
その中を歩む彼は、おびただしい人混みの中に紛れながら――歩を進め、やがて寂れた路地に辿り着く。
交差点の喧騒が嘘の様な静けさ。その静寂なひと時に安らぎを覚え、彼は街角に建つ小さなラーメン屋の看板を見上げた。
その
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