暁 〜小説投稿サイト〜
フルメタル・アクションヒーローズ
後編 懐かしい香り
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見出した彼女は。自分の死にすら気づけぬまま、目を見開いて永久の眠りに沈められてしまうのだった。

「――ぁあぁあああぁあッ!」
「お、おい!?」
「やめろバカ! 死ぬ気かぁあ!」

 その残忍な所業が、姉を殺された少年の限界を突き崩す。三人組の一人は、強盗の所業に激昂するまま突進を始めた。
 仲間達の制止を、耳にするよりも速く。

「……!」

 強盗の銃口は、やはり少年に向けられる。少年も走りながら懐に隠し持っていた拳銃を引き抜くが、やはり相手の方が早い。

 それを目撃した剣一は――本能で動き出した足を、理性で止めてしまった。

(ぼ、僕は……!)

 この隙に着鎧甲冑を使えば、「救済の先駆者」のスーツで強盗に殴りかかることは可能だ。至近距離で撃たれては、着鎧甲冑の強化繊維でもただでは済まないが――スーツが持つ超人的な走力を活かせば、それより速く強盗を倒せる。
 猛進する友人が撃たれるより早く。

 だが。それは着鎧甲冑の力で、人を傷付けることを意味する。

 この近距離では、着鎧甲冑でも撃たれれば負傷では済まないし、確実に友人が撃たれるより先に強盗を倒すには、今しかない。

 しかし、今ここで着鎧甲冑を使えば強盗もただでは済まないし、甲侍郎が積み上げてきた理想を砕いてしまうことになる。
 軍事企業からの話を断り続け、人命救助への力を守るために、身を粉にして働き続けた、大恩ある育ての親の理想を。

(ぼ、くは……)

 信じられない、という気持ちもある。彼の全てが清廉なものではない、ということも知っている。近頃は、理想への疑いも深まってはいた。
 それでもやはり、十年以上に渡り共に暮らしてきた育ての親には変わりなく、その中で育まれてきた愛情にも偽りはない。

 だから、その理想を疑っている身でありながら――彼は、甲侍郎の理想を裏切ることに踏み切れず。着鎧甲冑の使用を、躊躇ってしまった。

「がっ……!」

「……っ、あ、ぁ……!」

 その、心の底に残された愛情が。

 姉の仇討ちに走る少年を、殺す結果を招く。

 乾いた銃声が再び、ロビーに轟き。抜きかけた拳銃を手放した少年が、崩れ落ちるように倒れ伏した。
 その胴体を中心に広がり、床を塗り替える鮮血の花。瞳孔が開いた彼の瞳が、虚空を見つめていた。

「あ、あぁああ……!」

 それほどの過ちを犯して。
 剣一は、ようやく気付いたのだった。自分の選択が、間違いだったことに。

(僕は、見殺しにするつもりなんてなかった! こんな、こんなはずじゃなかった! でも、でも、そうじゃなかったんだ!)

 気がつけば、彼は声にならない嗚咽と絶叫を上げ、駆け出していた。その全身に、新緑のスーツを纏いながら。


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