第10話 あの日の悪夢を砕く盾
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(……火の手はそこまでじゃないな。だが、煙がかなり出ている。彼女達が一酸化炭素中毒にならずに出て来れたのは、僥倖だったな)
旧校舎の中を突き進む幸人は、バイザー越しに映る世界の惨状に、息を飲んでいた。暗視装置で視界は確保しているものの、ここが致死量の煙に汚染されていることには違いない。
もう少し、彼女達の脱出が遅れていたら。最悪、この道の途中で倒れ、そのまま覚めない眠りに落ちていたかも知れない。
ならば、事態は一刻を争う。出火地点の五階の教室に取り残された真里は、今頃火と煙に完全包囲されているはず。
(……からっぽのオレに、ヒーローとしての責任なんて語れる資格はない。それでもオレは、君を……!)
そして、ついに目的地に辿り着いた。
「……ぁ……!」
涙も、何もかも。体から出るものは、枯れるまで出し尽くした……と言わんばかりに憔悴しきった表情の、黒髪の少女。
佐々波真里。間違いなく、いつも華やかな笑顔を振りまいていたはずの、彼女だった。
「……」
泣き腫らした顔で、それでもなお泣縋るように自分を見つめる少女。そんな痛ましい姿の彼女を、労わるように。
幸人は刺激しないようゆっくりと、歩み寄って行く。
だが。
「……ダメぇぇえぇぇえっ!」
「……ッ!」
老朽化していた旧校舎が、火に煽られたせいか。ひび割れた天井が、真里に近づいた幸人の頭上に、一気に降りかかってくる。
その光景に、あの日の瞬間を重ねた真里は枯れたはずの涙を奥深くから絞り出し、絶叫した。
だが。
幸人は、彼女が予感した運命を変えようとしていた。
「……ッ!」
崩れた天井が、迫る瞬間。
懐から現れた、白いカードキーが胸のバックルに装填される。そして、カバーが閉じられた。
『Shield Contact!!』
その電子音声と。天井の衝突音は、同時だった。
◇
(あんまりだよ……あんまりだよ、こんなのっ……!)
こんなことがあっていいのか。こんな残酷な話が、あるだろうか。
真里の心理は、耐え難い絶望の淵に立たされ、幼気な良心は現実という刃で絶え間無く切り刻まれていた。
七年前、鳶口纏衛は自分を庇い殉職し。今度はみんなのヒーローだった「救済の遮炎龍」を、自分の至らなさで死へ追いやってしまった。あれほど、尊敬する琴海が慕っていたヒーローを。
なんという疫病神。なんという死神。
その呪縛から逃れようと、人々を救う医師を目指した果てが、この始末。
(こんなはずじゃ……こんなはずじゃなかった! わたしは、皆の……皆の役に、立ちたかっただけなのにっ!)
散々「死」を撒き散らした挙げ句、その命を糧とすること
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