第6話 悩める空手少女・玄蕃恵
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疑問の声を漏らした真里に過剰反応してしまう。
親友の前で、親友の想い人のことを考えてしまった。あの笑顔を、想像してしまった。
その後ろめたさ……もとい背徳感が、余計に恵の「いけない想像」を刺激する。もはや恵の思考は煙が上がりかねないほどにヒートアップしていた。
その時。恵は、ふと芽生えた疑問を口にする。
「えと、なぁ、その……あんま辛気臭ぇ話すんのも……難だし、話変えるけどよ。お前、才羽が笑ったところ、見たことあるか?」
『え? ど、どうしたの急に』
「い、いいから」
今度は真里の声まで上擦っている。この間までは、恵はそんな彼女をからかう側だったはずだが……すっかり、彼女のことを笑えないところまで来てしまった。
『う、うーん……。実は、ないんだ。才羽君、かっこいいんだから笑ったら素敵だと思うんだけど……。でも、笑ってなくても優しい人なのは、普段から見てれば伝わる。いつかは、見られたらいいな』
「そ、そっか……そうかもな……」
『……? 恵、なんだか様子が変だよ? どうかした?』
「へっ!? いい、いやどうもしてねぇよ!?」
いつもなら、ここで「ふーん、普段から見てんのかぁ」とニヤニヤしてからかうところだ。しかし、今の恵にはそんな余裕は欠片もない。
さすがにおかしいと思った真里は、心配げに声を掛けるのだが……安心させようと奮闘する恵の声は、上擦る一方だ。
「さ、さて! あんま長話させても悪いし、そろそろ切るわ! また明日な!」
『え? あ、うん。また明日ね……?』
このままでは気持ちがバレるかも知れない。それだけは何としても回避せねばならない。ある意味、幸人の秘密よりトップシークレット。
そんな焦りに苛まれた恵は、荒い呼吸のまま電話を切ってしまった。何も知らない真里も、様子が明らかにおかしい恵を案じながら、言われるままに通話を終える。
「……ったくもぉ。何勝手に振り回されてんだアタシはぁ。これも全部あいつのっ……!」
最後に残された、燃え上がるような羞恥心。そこから繋がり、生まれ出る怒りを、八つ当たり気味に幸人へぶつけようとした時。恵は振り上げた拳を、糸が切れた人形のように下ろした。
ある一つのことを、思い出したからだ。
「……明日こそは、ちゃんと……お礼、言わないとな……」
◇
それから、次の日。五月も終わりが近づき、世間では徐々に夏の予感が囁かれる時期だ。
(……もうすぐ、才羽の「救済の遮炎龍」としての任期が終わる。任期が終わったら、あいつがここに居座る理由も……)
そんな中。恵の意識は授業中であっても、昨日の事柄だけに支配されていた。どこか惚けた表情で、ペンを回す彼女の目は、ここではないどこかを映している。
来週
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