第5話 からっぽの少年
[5/5]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
で殴られたような衝撃を受け、思わず足を組んだ姿勢のまま、倒れそうによろけてしまった。
そんな様子を訝しむ幸人は、再び元通りの仏頂面に戻ってしまったのだが。恵は、あまりのことに突っ込む余力もない。
(さ、さい、ばが……)
幸人が、笑った。
ほんの一瞬だが、笑っていた。それは、仏頂面しか見たことのなかった恵には、強烈なショックを与える現象だった。
(え? なに? あいつ、あんな風に笑えるの? あ、あた、アタシに、笑った……の……?)
もしかしたら、真里ですら見たことがないのではないか。素顔すら知らない生徒会長では、一生縁がないかも知れない。それほどの希少な一瞬に、思わぬタイミングで直面してしまった。
単に顔がいいだけで、何考えてるか見当つかない上、優しい親友を振り回すいけ好かない仏頂面男。それが、昨日までの自分の中の「才羽幸人」だったはず。
それなのに。そんな男が、ふと笑顔を向けただけで、心臓が爆発させられたような衝撃を受けてしまった。体が、顔が、熱い。焦げる。溶ける。思考が、はっきりしない。
これは、まずい。
好きに、なってしまう。
「ア、アタ、アタタタ!」
「……?」
「アタシ、アタタタシ! そろそろ帰らないと親父がうるさいし、おいとまするわ! ま、また明日な!」
「そうでしたか。長く付き合わせてしまい、返す言葉もありません。今車を用意しますので……」
「いやいい! ちょっと夜風に当たりたいから!」
「畏まりました。では私が送りますから……」
「いや無理! 今あんたと二人きりで夜歩いたらアタシの心臓が死ぬ!」
「では博士を呼びますので……」
「それこそ無理! あんな胡散臭いオッサンとなんか死んでも無理!」
あるはずのない、あってはならない考え。そこへ至ってしまった恵は熱暴走のあまり、お茶を出そうと席を外していた誠之助まで罵倒し、嵐のように走り去ってしまった。
あらゆる対応を跳ね除け、突然顔を真っ赤にして逃げ出してしまった恵。自分が対応を誤ってしまったのかと頭を悩ませた幸人は、誠之助が戻ってきても、暫し反応が出来ずにいた。
「おや、幸人。玄蕃様はもうお帰りか?」
「……オレが何をしたって言うんだ……?」
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ