第5話 からっぽの少年
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が、そうして無気力なままヒーローとなってしまい、半年近くの月日を経た三月頃。テスト装着員としての任期満了が、二ヶ月に迫る時期。
聖フロリアヌス女学院の学園長から、ある依頼が舞い込んできた。用務員として女学院に潜伏し、生徒達の治安を守って欲しい、と。
一般家庭の出身である佐々波真里の入学は、この時点で確定しており、自分達のアイデンティティを脅かす新入生の到来に、当時の在学生達はすでに殺気立っていた。そのため、真里が何らかの危害を加えられる可能性が当時から見え隠れしていたのだ。
しかし、具体的な行動を起こされているわけではない以上、女学院側も迂闊には介入できない案件であり、「何か」が起きてからでしか対処できない以上、「何が起きても」大丈夫な人材を配置しておく必要があったのである。
そこで学園長が白羽の矢を立てたのが、当時世間の注目を集めていた噂のヒーロー「救済の遮炎龍」だった。
依頼の内容を聞きつけた幸人は、一も二もなく承諾し、カーキ色の作業服に袖を通すことになったのである。
それは無気力で、常に受け身でしか任務を引き受けてこなかった彼が初めて、積極的に動いた案件でもあった。
理由は無論、依頼内容に登場した「佐々波真里」の名前である。
あの日、父が命と引き換えに救い出した少女が。今も、無事に生きている。
それは父の殉職が無意味でなかったという何よりの証であり、消えていたはずの火を灯すきっかけになったのだ。
そうして彼が聖フロリアヌス女学院に勤務する用務員となり、一ヶ月。
四月の入学式の日。ついに幸人は、あの日の少女と再会し。彼女が自分を覚えていないことに安堵した。
覚えているのが自分だけなら、彼女に気を遣わせずに済む。そう思い、勘付かれる前に踵を返し、何も知らない、関係のない用務員として振る舞おう。
そう、しようとした時だった。
生徒会長と言葉を交わした彼女は、自分が女学院に来た目的を、幸人がいる前で口にした。
あの日の男の子が、いる前で。
その瞬間。
幸人は、しばし茫然と彼女を見つめ。
涙を悟られまいと。仕事に打ち込む様を装い、顔を背けた。
生きていてくれたばかりか。自分のために、この女学院に辿り着いたと言い切ってしまった彼女が。
空虚な理由でヒーローになった少年には、ただひたすらに眩しかった。
その日から、初めて。幸人は。
「誰かのために戦いたい」という、ヒーローなら持って然るべき気持ちを、知るに至ったのである。
「救済の遮炎龍」テスト要員の、任期満了。その瞬間を目前に控えた今になって、ようやく彼は。
ヒーローとして、戦う意義を見出したのだ。
「……オレは、彼女を。守りたい。それが、からっぽのオ
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