第5話 からっぽの少年
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けを紡ぐその姿は、恵にはどこか弱々しく映る。
「その時になって、ようやくわかりました。……私は……オレは。本当にヒーローになりたかったわけじゃない。人を助けたい、なんて純粋な気持ちがあったわけでもない。ただがむしゃらに『救済の遮炎龍』の道に打ち込むことで、父さんを亡くした気持ちを、悲しみを。埋めようとしていたに過ぎなかったのだと」
「……私も、薄々は勘付いてはいましたが。なにぶん、才能だけは突出しておりましたからな。他の候補者より有用なデータが取れる人材であるなら、動機を問う意味もありません」
「私自身も、そこまで自分が矮小な人間だったとは気付きませんでした。泣いてばかりの弱い自分と決別する。そんな覚悟を決めた『つもり』で、名前まで変えたのに」
「そん、なの……」
椅子から立ち上がり、何かを言おうとしても、かける言葉が見つからない。そんなしみったれた理由でしか戦えないなんて、間違ってる。そう言いたくても、彼らにとってはそれに縋る他なかったのだから。
「……それからの半年は、戦う理由を探しながら義務感だけで走り回る毎日でした。どんな動機であれ、本当に心から人々を助けたい、と願った候補者達を蹴落として『救済の遮炎龍』になった以上、勝手に投げ出すわけにも行きませんから」
「……」
初めて人々の前に姿を現した日から、ずっと。みんなのヒーローは、『救済の遮炎龍』は。
人命救助への情熱などとは無縁な、機械的な義務感だけで戦っていた。あれほど「救済の遮炎龍」を尊敬していた琴海も、「義務だから仕方なく」拾った命でしかない。
言外に、そう言い放たれたように感じた恵は、視線を落として逡巡する。聞きたくはないが、聞かなくてはならない。
「真里も……真里も、あんたにとっちゃ、どうでもよかったのか? あんなに走って助けた命も……あんたからすれば、義務だから仕方なく拾ったものでしか、なかったのか?」
真里や琴海には劣る、小ぶりな胸の前で服を握る。不安に瞳を揺らして、それでも真実を求めて。
振り返り、そんな彼女を見据える幸人の眼は。
「それは、違います」
「……!」
はっきりと、それを否定した。
◇
半年前にようやく完成した「救済の遮炎龍」のスーツは、手探りの研究から生まれた試作品だった。その半ば偶然の産物であるスーツを基に、より完璧な完成品を造るためのデータを集める必要があったのだ。
そのための実戦データを集めるテスト要員になったのは、本来それに選ばれるはずだった鳶口纏衛の息子。
しかし彼はただ能力が高いだけで、本質的にはヒーローへの意欲はないに等しかった。それでも他者を排して資格者になった以上、約半年に渡るテスト期間を満了し、その責任を果たす義務がある。
才羽幸人
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