第4話 本当の名前
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
らぬうっと顔を出してくる。
「ああ。仕事の一区切りが予想より早くってさ。オレも、今帰ったとこ」
「……!」
そんな怪しさ全開の中年男性と言葉を交わす幸人の姿は、一ヶ月に渡る日々の中で恵が抱き続けてきた「才羽幸人」の印象を瓦解させるものだった。表情こそ普段通り仏頂面だが、その口調はかなり砕けている。
自分や真里の前では欠片も見せてこなかった、素の言葉遣いを見せる彼の佇まいに、恵は思わず目を剥いた。
「そうか。……その御令嬢が例の?」
「ああ、そうだ。……玄蕃様。こちらは私の育ての親であり、『救済の遮炎龍』のスーツを開発された才羽誠之助博士です」
だが、学校を一歩出れば……というわけではないらしい。彼は恵と向き合った途端に元の口調に戻ると、淡々とした口調で中年男性を紹介する。
あからさまにお姫様扱いを受けている感覚に、恵は顔をしかめる。さっきのような振る舞いを普段から垣間見せていれば、真里も好きな男に、もっと気兼ねなく近づいて行くことが出来たろうに、と。
「ご紹介に預かりました、救芽井エレクトロニクス研究開発班所属の才羽誠之助です。まぁ、開発者といっても主任である四郷博士の助手のようなものでしたがね。……それはさておき、玄蕃恵様。うちの幸人が大変お世話になっているようで」
「……いいよそういうの。アタシは才羽の話を聞きに来たんだから」
不機嫌を滲ませた表情で、恵はじとりと幸人を見遣る。そんな彼女を一瞥する幸人は、恵のそばにスッと椅子を用意した。
長話になるから座れ、ということか。そう察した恵はドカッと乱暴に腰を下ろし、しなやかな白い足を組む。
「誠之助さん。……話しても、いいよな」
「ああ。しかし、引退間近にバレた相手が選りに選って『彼女』の親友とはな」
「……?」
確認を取るように視線を移す幸人に対する、誠之助の言葉に、恵は引っかかるものを感じた。
引退間近、という話も十分気になるが。それ以上に、二人の間にある微妙な距離感が気掛かりだった。
苗字から、二人が親子であることは容易に推察出来る。開発者の息子であるならば、「救済の遮炎龍」をやっていた理由も想像がつくというもの。
だが、彼らの間には親子と呼ぶには遠い溝を感じる。
無論親しい間柄であることは間違いないが「親子」にしては、何処か「遠い」のだ。
それは父の誠之助を名前で呼ぶ幸人の接し方のせいだろうか。
(いや、待て。確か才羽の奴、才羽博士のことは「育ての親」って言ってなかったか?)
そう当たりをつけた恵は、ふと幸人の言葉を思い出し、核心に至る。実の親子でないのなら、あの距離感も納得がいく。
なら、幸人の両親は……? そんな恵の疑問を氷解させる言葉が、幸人自身の口から飛び出してきた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ