第2話 特別優秀生・佐々波真里
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り合いがいなかったら、不安だったんだ」
「そうかい? アタシとしちゃあ、一般の高校が良かったんだけどなぁ。『軟弱な庶民の学校に通うなど許さん! それでも玄蕃家の娘か!』って親父がうるさくってよ」
「あはは……」
風が桜を運ぶ校庭の中で、真里は隣を歩く少女と親しげに言葉を交わす。
焦げ茶色のシャギーショートをふわりと揺らす、長身の美少女――玄蕃恵は、色白のしなやかな肢体の持ち主。切れ目の鋭い目つきからは、お嬢様らしからぬ強気な雰囲気が漂っている。
さらにそのスレンダーな体型に反して、出自は日本武道の頂点と謳われる玄蕃家の娘であり、彼女自身も空手の世界選手権で活躍するほどの達人である。
だが、それほどの名家の生まれでありながら。
恵は幼い頃から、東京の街に飛び出しては一般家庭の子供達と遊ぶ変わり者でもあった。東京の住宅地で生まれ育った真里とは、その頃からの幼馴染である。
「悪口のつもりじゃないんだけど……やっぱり恵って、お嬢様って感じじゃないよね」
「アタシに限った話じゃねぇさ。姉貴も家飛び出して女子アナやってるし。玄蕃家にまともなお嬢様なんざいねぇよ」
「あはは、そんなこと……あれ?」
「あん? どした真里」
その時。真里の視界に、カーキ色の作業着に袖を通し芝刈りや箒がけに勤しむ男達の姿が入り込んできた。
「こういうお嬢様学校にも、男の用務員さんっているんだ。がっちがちの男子禁制って聞いてたけど……」
「ん? まぁ、女子の用務員が嫌がるような野外の汗くせえ仕事もやってくれるしな。人件費も安いし、例外なんだよ。ただまぁ、庶民の男っつー理由で生徒達からは白い目で見られてるし、役得って感じはねーんじゃねぇか? ま、アタシは庶民も男もカンケーないけどさ」
「ふぅん……よし」
この女学院にも男子用務員がいると知り、同時にここの性質ゆえに肩身の狭い思いをしている、ということも聞いた彼女は僅かな逡巡を経て、ぱたぱたと走り出す。
そんな彼女の行動パターンを読んでいた恵は、「仕方ないな」と溜息混じりに笑いながらゆっくり後を追った。
「用務員さん。いつも校舎を綺麗にしてくださり、ありがとうございます」
「……」
無表情で掃き掃除をしていた、白マフラーを巻いている用務員の一人に、真里は恭しく笑顔でお礼を口にする。声を掛けられた用務員は、一瞬驚いたように目を見開きながらも、すぐさま応じるように頭を下げた。
「いえ、仕事ですから。こちらこそ、私達のような下々に目をかけて下さり、感謝の言葉もありません」
「えっ……や、やだ、わたし一般家庭の出なんです! お嬢様じゃないんです!」
「存じております。ですが、この女学院の生徒様であることには変わりありません」
「
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