暁 〜小説投稿サイト〜
フルメタル・アクションヒーローズ
最終話 地獄を感じた、あの日から
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上げる和士が、鉄の拳を握り締める瞬間。ワイヤーを伝っていた彼は、黒煙が立ち込める窓の中へと飛び込んで行った。

 彼の視界を暗黒が埋め尽くす。だが――マスクのバイザーに内蔵された暗視装置が、直ちに目の前を明瞭にした。

「……」

 ――彼が纏う「救済の遮炎龍」のスーツには、生体反応レーダーが内蔵されている。その情報から、すでに彼は逃げ遅れた最後の一人の位置を概ね特定していた。
 だが、それは四十階以上の上層――というところまででしかない。その精度をさらに高める補助機能を使うため――彼は、腰のポーチからもう一枚のカードキーを抜いた。
 先ほどとは対照的な純白のカードキーを胸のカバーに装填し、閉じる。

『Shield Contact!!』

 刹那。少年の左手に、真紅の盾が装備された。バックラーを彷彿させる、そのアタッチメントは――「盾型消火銃(インパルス・シールド)」。
 特殊合金製の盾にインパルス消火システムを一体化させた「救済の遮炎龍」の主力装備であり、その裏面には圧縮空気タンクと生体反応レーダーの補助機能も組み込まれている。

「……要救助者、確認。直ちに保護する」

 「盾型消火銃」の装着から、被災者の特定。その所要時間は五秒もなかった。彼は場所を断定するや否や、猛然と階段を駆け抜けて行く。
 黒煙と炎に包囲された五十二階に、亜麻色の髪を持つ彼女はうずくまっていた。窓の近くにいたためか、そこまで煙を吸っておらず――微かに意識がある。

「お母様……お母様……琴海を置いていかないで……」
「……」

 発見して間も無く保護し、マフラーで少女の鼻と口を塞ぐ直前。彼女が残したうわ言が、少年の耳に届いたのか。
 彼女を抱きかかえた彼が、窓から飛び出した瞬間。彼は、誰にも聞こえないように――囁いていた。

「置いて行ったりなんか、しない。絶対に。……そうだろ、父さん」

 少女に、その言葉が届くことはない。それは少年もわかっていたはずだった。彼の言葉は、本当に少女に向けたものだったのか。

 彼自身にも、それはわからない。窓を飛び出し、四十階のワイヤーまで壁を駆け下り――その勢いのままワイヤーを片手で掴み、減速しつつ優雅に地上へ降りるまで。
 彼は無言のまま、謎のニューヒーロー誕生に沸き立つギャラリーに目もくれず。気を失った少女を、静かに見つめていた。

「……『救済の遮炎龍』……か」

 そんな彼の活躍を見上げる和士の周りでは、救急車や消防車、それにパトカーまでが大勢入り乱れていた。ようやく、事態が終息に向かおうとしている。
 だが、彼の心は晴れない。少年が見せた、無茶を無茶と思わせないほどの苛烈な戦いぶりに――かつて離れ離れになった戦友達に、重なるものを感じたためだ。

「――
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