暁 〜小説投稿サイト〜
フルメタル・アクションヒーローズ
最終話 地獄を感じた、あの日から
[3/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
で、「影」はゆらりと立ち上がる。

「……!」

 振り返った「影」は――十五歳ほどの、少年だった。やや切れ目の鋭い目付きであるが、白い肌と艶やかな黒髪を持つ美少年である。
 赤と黒を基調とするライダースジャケットを纏う彼は和士の方へ振り返り、素顔を露わにする。白いマフラーが寒空の風に揺れ、ふわりと舞った。
 彫像のように整った目鼻立ちでありながら、この冬にも勝るほどに冷たい無表情の彼は、訝しむ和士をじっと見つめていた。

「……こちらの方に怪我はありません。ですが、かなり煙を吸っておられるはず。救急車の手配もお願いしたいのですが」
「……それはもちろん、こちらで手配する。だが、お前は一体何者だ。先ほどの手腕から只者では無い事はわかるが――!?」

 ようやく口を開いた少年に食ってかかる和士だったが、言い終えないうちに言葉を止めてしまう。
 少年の左腕が――右腕より異様に長く。左肩が、右肩よりかなり低い。明らかに、脱臼している。

 ――恐らく先ほどのキャッチと、大人一人を庇いながら十メートルの高さから飛び降りたショックのせいだろう。だが、そんな状態でありながら辛そうな表情一つ見せない少年が、和士としては何より不気味に感じられた。

「お前、怪我してるじゃないか! 話は後だ、ここに部下を呼ぶからお前は待って――」
「――必要ありません。それに今は、残りの一名の救助を優先すべきです。ここは私が引き受けますので、あなたは他の被災者の説得に向かってください」
「はぁ!? そんな状態で何を言って――!?」

 またしても和士は、言葉を止められてしまった。

 鈍い音。関節の中にある筋肉と骨が歪に擦れ合う、聞くに耐えない音だ。
 彼は――眉一つ動かすことなく。外れた肩を、自力で整復していた。耐え難い激痛が伴うはずのその行為を、まるで当然のことのようにこなす少年の姿に――和士は一瞬言葉を失うのだった。
 彼の動揺を他所に、少年は無表情のまま首を捻り後方の被災者達を一瞥する。

「――お、まえ……」
「被災者の方々は、今も突発的な状況に精神を乱され、冷静さを欠いています。彼等を宥め、より安全に被災者全員の身柄を保護するには――絶大な求心力と名声を持つあなたの『声』が必要なのです」
「……お前は一体!?」

 生身一つで飛び降りた男性を救助し。自分の長所を的確に指摘し。事件の状況を正確に把握し。肩を脱臼しても顔色一つ変えず、即座に整復。
 どれをとっても並のレスキューヒーローとは比にならない能力だった。その実態を問う和士の前で――少年はライダースジャケットのファスナーを下ろす。

「――私は」

 ライダースジャケットの下には――メタリックレッドで塗装された、鋼鉄製の袈裟ベルト。

「それ、は……『|
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ