最終話 地獄を感じた、あの日から
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で、「影」はゆらりと立ち上がる。
「……!」
振り返った「影」は――十五歳ほどの、少年だった。やや切れ目の鋭い目付きであるが、白い肌と艶やかな黒髪を持つ美少年である。
赤と黒を基調とするライダースジャケットを纏う彼は和士の方へ振り返り、素顔を露わにする。白いマフラーが寒空の風に揺れ、ふわりと舞った。
彫像のように整った目鼻立ちでありながら、この冬にも勝るほどに冷たい無表情の彼は、訝しむ和士をじっと見つめていた。
「……こちらの方に怪我はありません。ですが、かなり煙を吸っておられるはず。救急車の手配もお願いしたいのですが」
「……それはもちろん、こちらで手配する。だが、お前は一体何者だ。先ほどの手腕から只者では無い事はわかるが――!?」
ようやく口を開いた少年に食ってかかる和士だったが、言い終えないうちに言葉を止めてしまう。
少年の左腕が――右腕より異様に長く。左肩が、右肩よりかなり低い。明らかに、脱臼している。
――恐らく先ほどのキャッチと、大人一人を庇いながら十メートルの高さから飛び降りたショックのせいだろう。だが、そんな状態でありながら辛そうな表情一つ見せない少年が、和士としては何より不気味に感じられた。
「お前、怪我してるじゃないか! 話は後だ、ここに部下を呼ぶからお前は待って――」
「――必要ありません。それに今は、残りの一名の救助を優先すべきです。ここは私が引き受けますので、あなたは他の被災者の説得に向かってください」
「はぁ!? そんな状態で何を言って――!?」
またしても和士は、言葉を止められてしまった。
鈍い音。関節の中にある筋肉と骨が歪に擦れ合う、聞くに耐えない音だ。
彼は――眉一つ動かすことなく。外れた肩を、自力で整復していた。耐え難い激痛が伴うはずのその行為を、まるで当然のことのようにこなす少年の姿に――和士は一瞬言葉を失うのだった。
彼の動揺を他所に、少年は無表情のまま首を捻り後方の被災者達を一瞥する。
「――お、まえ……」
「被災者の方々は、今も突発的な状況に精神を乱され、冷静さを欠いています。彼等を宥め、より安全に被災者全員の身柄を保護するには――絶大な求心力と名声を持つあなたの『声』が必要なのです」
「……お前は一体!?」
生身一つで飛び降りた男性を救助し。自分の長所を的確に指摘し。事件の状況を正確に把握し。肩を脱臼しても顔色一つ変えず、即座に整復。
どれをとっても並のレスキューヒーローとは比にならない能力だった。その実態を問う和士の前で――少年はライダースジャケットのファスナーを下ろす。
「――私は」
ライダースジャケットの下には――メタリックレッドで塗装された、鋼鉄製の袈裟ベルト。
「それ、は……『|
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