最終話 地獄を感じた、あの日から
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う巡り会うことはない。
それはヒーローになる以前から、和士も熟知していることだった。かつて総理大臣だった父を持つ彼は、強い者に媚び弱者を蹴落とす上流階級の闇を、嫌というほど見てきたのである。
(助かるための指示は聞かない。助からなけりゃ、何をしていたと難癖付け放題。こんな連中に、あいつらは喰い物にされたのか! ――んッ!?)
その時だった。
ビル全域を見遣りながら、いなくなった父娘を部下に追跡させていた彼の目に――ある変化が留まる。
――約四十階ほどの階層にて。黒煙が噴き出す窓から、人が乗り出してきた。あの身なりのいい白スーツの壮年男性は――父親の方だ。
火災の熱気と煙に追い詰められた人間が窓に逃げ、極限状態の緊張により地表を実際より近いものと錯覚して飛び降りる。――よくある話だ。
「煙に追い詰められたか! 父親の方を発見した、近場の隊員は直ちに救助に――!」
その知識から導き出される悲劇の予兆。瞬時にそれを認識した和士は咄嗟に指示を出すが――父親の飛び降りの方が先だった。
「――ちィッ、着鎧甲冑ッ!」
それを見るや否や。和士は走りながら羽根つきの「腕輪型着鎧装置」から黒いヒーロースーツを転送し――「至高の超飛龍」の「基本形態」に着鎧する。
通報の際に聞いた現場の状況から「飛行形態」は不要と判断し、いち早く現場に到着することを優先して「超飛龍の天馬」に乗って来なかったことが仇となっていた。
(恐らく娘を追う途中に煙に遮られ、自分が耐え切れなくなって飛び降りたんだな。ド素人が余計なことしやがって! ――あの高さじゃあ、俺がジャンプして受け止めても骨折は避けられん。ちくしょう、飛行ユニットさえあればこんなことには!)
被災者側が指示に従わなかった結果であるとはいえ、全員無事とは行かなくなったことには変わりない。あらゆる事態に対処し切れなかった自分の采配を悔やみながら、それでも「命」だけはと和士はひた走る。
――すると。
「……!?」
別の人影が、振り子のように和士の視界に映り込んできた。四十階相当の高さから、まるでターザンのように割り込んできた「影」に、和士はさすがに目を点にする。
アンカーを四十階の壁に突き刺し、黒いワイヤーで弧を描くように現れた「影」。それは飛び降りた男性を横から攫うと、滑るように地上へと降り始めた。
恐らくワイヤーの長さを調節しながら降りているのだろうが――さすがにワイヤーの限界が来たか。残り十メートル前後というところで「影」はワイヤーを手放し、地面を転がりながら着地する。男性を怪我させまいと抱えながら。
「お、おいっ!」
他の被災者から離れた地点に着地した彼の元へ、和士は素早く駆け付けた。そんな彼の前
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