第34話 蛮勇の群れ
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ズが混じった声のようだが――いつもこの町で聞く、焼き芋屋とは違うようだ。
長年この町で暮らす賀織にも聞き覚えがないらしく、二人とも手を止めてしまっていた。
そして、その声に耳を済ませた結花は――
『らぁめん、あぁまぁぁあきぃ〜……出張開店だぁよぉ〜っ!』
「……すみません、すぐ戻ります!」
「え!? ちょ、結花ぁ!?」
――自分が何をしていたのかも忘れるほど、夢中になる思いで。その場から飛び出し、エプロンと靴下のまま玄関から飛び出してしまった。
息を切らし、汗だくになりながら――彼女は遅い足で懸命に走り、声の主を辿る。
「旦那ァいいんすかァ!? 今夜も愛妻のスペシャル料理が待ってるんしょオ!?」
「ばぁーろゥ! 今時滅多に見ねぇラーメン屋台だぞ!? 食わねぇ手がアルカディア!」
「最後の方はよくわかんないスけど、とりあえず俺も食いまーす!」
「あっ!? 先輩ズルイ! あっしも食べりゅうぅう!」
「ヘェイラッシャァアセェエェ! ご注文はァアァアァイ!?」
やがて声は徐々に大きくなり――どこか懐かしいスープの香りが、結花を惹きつけた。賀織の旦那であり、大工達の棟梁である一煉寺龍太の声も響いてくる。
最愛の幼馴染の、聞き慣れた叫び声も。
(陸、陸っ……陸ぅっ!)
ポロポロと涙をこぼしながら、それでもなお前進する少女。そんな彼女を最後の曲がり角を越えた先で待っていたのは――
「マイドアリッシャアァアア――ってあれ? おーう、結花じゃねーか!」
――屋台ラーメンで大工達と和気藹々な雰囲気で交流する、長身の少年。忠道製の義足を付けた彼は、汗だくになりながらも元気にラーメンを並べている。
他人の空似ではない。夏の暑さが見せる幻でもない。「漢は黙って乳を揉め」と無駄に達筆なフォントでプリントされた炎柄Tシャツを着る、アホ丸出しの高校生など他にいない。
彼は間違いなく――雨季陸。結花が会いたいと願い続けた、最愛の男だった。
「陸……陸、陸、陸ぅっ!」
「おわっ。……ははは、なんだなんだ寂しんぼだなぁお前。休みが出来たら会いに行くっつったろうが」
「ぐすっ……だって、だって……」
「泣くんじゃない泣くんじゃない。――お前には大事な用があるんだからよ」
「だ、大事な、用……!?」
「ああ。とんでもなく、大事な用だ」
感極まるあまり、思わず胸に飛び込んでしまう彼女。そんな幼馴染を、陸はしばらくあやすように頭を撫で――やがて、真剣な面持ちで両肩に手を置く。
その真摯な眼差しで射抜かれた結花は、夏とは無関係の「熱」でクラクラしてしまう。短い遣り取りで二人の仲を察した龍太達は、無言でラーメンをすすりながらニヤニヤと見守っていた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ