第34話 蛮勇の群れ
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つ、握手を終えた大勢の客が警備員誘導のもと、ようやく立ち去って行く。そんな彼らの後ろ姿を見送り、ユイユイ――を引退した天坂結衣は、長年連れ添ったプロデューサーと笑いあっていた。
「失礼します。握手会と伺ったのですが、もう御開きでしたか?」
「ん? ああ、すまないね。もう時間が来てしまったんだ、私達もそろそろ移動しなくてはならないんだよ」
その時。茶色の髪の少年が、彼女達の前にふらりとやって来る。ゆったりとした服装と穏やかな物腰から、他のファンに圧倒されて並べなかったのだろう――と、プロデューサーは当たりをつけた。
そうして不憫には思いつつも時間だからと追い返そうとするが――結衣本人がそれを遮る。
「いいじゃない、あと一人くらい」
「でも結衣――じゃない、ユイユイちゃん……」
「どうせ最後なんだから、握手一回くらいワガママさせてよ」
「……はぁ、わかったよ。車を待たせてるんだから、手短にね」
腕時計を見やりながら、プロデューサーは結衣の強情さに溜息を零す。そんな彼に、少年は恭しく一礼した。
「ご厚意に感謝致します」
「あぁいや、うん、まぁ……君も手短にね」
こういうライブに来るような客層とはまるで違う、上流階級のような佇まいを前に思わずたじろぐプロデューサー。
そんな彼に微笑を送りつつ、少年は結衣の前に手を差し出した。
「――あなたの歌。踊り。笑顔。いずれも生き生きとした情熱を帯びていて……大変感動しました。今まで、私達に希望と勇気を授けて下さり――ありがとうございます。そして、お疲れ様でした」
「そ、そんな大袈裟な。でも、ありがとうございますっ! 最後にそんなウレシい言葉を貰えて、ユイユイもカンゲ……キ」
恥ずかしげもなく歯の浮くような台詞を、真剣に言ってのける変わり者に戸惑いながらも――結衣はなんとかキャラを保ちつつ、差し出した手を握る。
だが――彼の手首に巻かれたモノが目に入った途端。彼女の「キャラ」は、そこで停止した。
羽根をあしらった、傷のある腕輪。どこか見覚えのあるソレは、彼女の記憶から徐々に蘇り――あの日の光景と重なって行く。
傷付いた羽根の腕輪。その記憶と重なるように、彼女の眼前に同じものが映された。
この腕輪の傷。手の感触。機械の鎧を隔てた先にも伝わった、温もり。
全てが一致し、彼女の脳裏に一つの結論が訪れる。
「あ……なた」
「ええ。――その節は、どうも」
「……ばかっ! ずっと――ずっと探してたんだからぁっ!」
刹那。じわっと目元に溢れる想いを浮かべた彼女は、握手会のテーブルを蹴り倒し――少年の胸に飛び込んで行く。目の前でそれを見せ付けられたプロデューサーは、大慌てで止めに入るのだった……。
◇
――そ
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