第34話 蛮勇の群れ
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で――眼前の釣り人の胸に飛び込んで行く。
――あの日。混濁した意識の中でも。彼女ははっきりと彼の顔と、伊葉和士との遣り取りを覚えていた。
和士は、結友が海原凪に幻想を抱いていると見ていたが。本当は、違う。
彼女は知っていた。凪が田舎者のような口調を持つ、間の抜けた男だということを。その上で、彼を好いていた。
下心や欲塗れの男達とは全く違う――本当に命懸けで自分を守り抜いてくれた彼に。彼という「男」に。結友の「女」が、虜にされたのだ。
◇
――そうして、長女が二年に渡る想いの丈をぶつけていた頃。
齢十八を迎えた次女は、アイドルからの引退を宣言し――「フェアリー・ユイユイ」の最後を飾るライブを終えていた。
最後にアイドルとしての彼女に触れようと、ライブ後の握手会にはおびただしい数のファンが訪れていた。そんな彼ら一人一人に、ユイユイは労いと感謝の言葉を伝えていく。
「ユイユイ! ぼ、ぼく、ユイユイに貰ったエネルギーでがんばるから! 仕事ぜったいに見つけるから! 今まで本当にありがとう!」
「ありがとうございますっ! ぜ〜ったいイイ仕事見つけて、ご家族を安心させてくださいねっ!」
「お疲れ様ユイユイ! おれも受験頑張るからさ、ユイユイも元気でいてくれよ!」
「だ〜いじょうぶ! ユイユイはいつまでも元気いっぱいですよっ! なんたって妖精さんなんだもんっ! あなたこそ、受験勉強に負けちゃダメだぞ〜っ?」
「今までお疲れーっ、ユイユイ! 俺らも『救済の超飛龍』のこと応援してるから!」
「ありがとうございますーっ! きっと『救済の超飛龍』様も、そう言ってもらえてウキウキですよっ!」
――ファン一人に分け隔てなく。彼女は自分を引退の瞬間まで支えてくれたファン達に、それぞれのエールを送っていた。
何百人が相手だろうと。何時間ぶっ続けだろうと。彼女はファンのためとあらば――可憐な容姿からは想像もつかないスタミナで、戦い抜く。
そして、五時間以上に渡る熱気との戦いは――ようやく、終息の時を迎えようとしていた。
八月の猛暑の中で断行された、青空の下での野外ライブ。さらに、その後すぐの握手会。並のアイドルなら、間違いなく途中で体調を崩していたところだ。
曲がりなりにもトップアイドルの座に数年君臨した彼女ならではの、力技である。
「全く、軍隊もびっくりのスタミナだよね結衣ちゃん。だからこそ引退を惜しまれるってもんなんだけど……まぁ、『十八歳で恋愛解禁』が事務所の方針だし、仕方ないか」
「えへへ。それに、惜しまれるタイミングの引退を狙った方が好印象ですからね!」
「……したたかだよね、結衣ちゃん」
「んー? 私妖精だから、難しいことわかんなーい」
最後の別れを惜しみつ
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