第34話 蛮勇の群れ
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――自分の心を奪い去った海原凪との出会いから二年。あれからずっと結友は、時間さえあれば彼の姿を追い求め続けてきた。
彼女はその美貌と穏やかで心優しい人柄、均整の取れたプロポーション、そしてトップアイドル「フェアリー・ユイユイ」の姉であるというステータスから、高校では学園のアイドルとなっており――すでに二百人以上の男子から告白されていた。
その中には有名なスポーツ男子や読者モデル、白人留学生や大企業の御曹司まで含まれていたのだが。誰一人、彼女の胸中に住み着いた男の影を消すことは出来なかった。
どんな優良物件に言い寄られても、彼女は寸分たりとも迷うことなく、海原凪への想いを抱き続けてきた。――しかし。
(……この二年間、東京中をあちこち探し回ってきたのに……全然見つかる気配がないよ……。私じゃ、ダメだったのかな……。もしかしたら、もう田舎に帰っちゃったのかも……)
持てる力を尽くして情報を集めようとしても、まるで収穫がない。実を結んでくれない捜索を二年間、絶えず続けてきた彼女は途方に暮れていた。
(でも――このまま、何も伝えられないままなの? 感謝の言葉も、好きな気持ちも……。そんなのやだ、やだよ……)
妹達の前では決して吐かない弱音が、心の奥で渦巻いている。抑圧された感情を止め切れず、彼女の目尻に「想い」が貯まろうとしていた。
――その時。
「きゃっ……!」
一際強い潮風が結友の体を吹き抜け――白い帽子を風に乗せてさらっていく。
「あ……!」
その帽子はひらりと遠くへ飛んで行き――やがて。
「――うん? なんだべ、こりゃ?」
通りすがりの釣り人が持っていた、竿に引っかかるのだった。
「す、すみません! それ私のなんで――」
そこへ慌てて駆け寄る結友だったが、ふと顔を上げた途端。彼女は言葉を失い、立ち尽くしてしまう。
「――ぁ……ぁ、あ」
「ははぁ、これお姉ちゃんのなんだな。この辺、風が強いんだから気をつけねどダメだべ? ……どしただ? お腹痛いだか?」
小麦色に焼けた肌を持つ釣り人は、八重歯を覗かせ「にへら」と笑い、竿から帽子を取り外す。そして微笑と共に持ち主に差し出したのだが――持ち主、即ち結友の異変に小首をかしげるのだった。
そんな彼の思案を他所に。結友は溢れる涙を拭うことも忘れ、口元を両手で覆う。
「そんなに大事な帽子だっただか!?」と慌てる釣り人を見つめる彼女は、やがて涙声になりながらも問い掛けた。
「海原凪、さんですか……?」
「うん? そうだども……おろ? よく見りゃお姉ちゃん、あの雨ん時の――」
「――会いたかった……!」
その答えだけが、全てだった。無我夢中になり、結友は感極まる想い
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