第34話 蛮勇の群れ
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名声」など何の価値もない。彼が何よりも尊重し、敬ってきたヒーローの本質を持つ、三人の男。彼らの存在を認めない世間の言葉に、和士の心を動かす力はなかった。
「それでも俺は……紛い物として。人々が呼ぶ限り、身体が動く限り。これから先も戦い抜いて行く。それが、俺が犠牲にしたあいつらへの、せめてもの贖いだ」
和士の拳に、力が入る。以前なら、とうに血が滲んでいたはずの彼の拳は――金属が擦れ合う歪な音色を刻んでいた。
それは自分への戒めでもあり――不安の裏返しでもある。もう彼のそばには、海原凪も雲無幾望も、雨季陸もいない。皆、和士の前から姿を消してしまった。
すでにヒーローとしての和士は、独りであった。もう、心から信じられる本当の仲間はいない。周りのヒーロー達は皆、出世欲に毒された俗物ばかりであった。
「――また震えてるわよ、和士」
「……済まない」
それでも、彼が折れないでいられるのは。例え孤独であろうと、守り抜きたい人が隣にいるからだ。
白いドレスに身を包む、茶色のセミロングを靡かせた美少女。身体の発育に沿うような落ち着きに、たおやかな眼差しは――「少女」の壁を超え、大人の女性へと近づき始めた証であった。
その白い左手からは――眩い宝石が光を放っている。
「麗。俺はまだ……いや、これからもずっと。走り続けて行くだろう。走って走って走り抜いて、足が折れたなら両手で這うし、両手も折れたなら地面に食らいつく」
「……ええ」
「そうやって生きて行けば、いつかは力尽きるだろう。その時は――もたれかかってもいいか?」
「イヤって言ってももたれかかるくせに。……ま、それくらい強引で強情なくらいが、あなたらしいんだけどね」
「――違いない、な」
からかうように笑う彼女に釣られ、和士も口元を緩ませる。やがて視線を交わした二人は、夏空の下――人知れず唇を重ねた。
(……そうだとも。俺は、まだ止まれない。「あいつら」に報いるには、あまりにも俺は弱過ぎる)
――か弱き命を明日に繋ぐため、己の命を糧とすることも厭わない蛮勇の群れ。鋼の心か、ただの無謀か。
どちらとも言えない「彼ら」を、伊葉和士は敢えて「鋼」と称する。さしずめ、「鋼の心の救助者達」と。
◇
――同時刻。
天坂結友は晴海ふ頭公園にて、白いワンピースに身を包み――海を一望できる絶景を見つめながら、何処と無く寂しげな表情で佇んでいた。
(……神様が、諦めなさいって言ってるのかな……)
潮風が、彼女の艶やかな黒髪を靡かせる。ふわりと揺れるストレートロングの髪が、風に流され彼女の香りを運んでいた。
白い帽子に陽射しを覆われ、影に隠された彼女の瞳は、青い海原を映している。
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