第32話 暴走、リニアストリーム
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(やっぱり「黒」じゃないか! だいたい、フェザーシステムが発表されて一ヶ月足らずのうちに始まった企画が、まともなはずないんだよ!)
憤怒の余り、操縦桿を握る手に力が篭る。震える義手は、操縦桿を握り潰さんと震えていた。
(そもそもフェザーシステムが正式にロールアウトされてから一年以内に、ジェット技術だけ丸々流用したリニアなんて、真っ当にテストしてる時間もなかったはずだ! 大方、救芽井エレクトロニクスの急成長にあやかりたくて、「着鎧甲冑の技術応用」って触れ込みを利用したかったんだろうが……企業利益のエゴのために人民の生命を危機に晒すとは!)
気が狂うほどの怒りが、胸の内を支配して行く。「名声」目当てのエゴのために、雲無幾望という男が人生を懸けた結晶が、穢される。それだけは、絶対に許せないと――和士の眼に灼熱が燻った。
(……すでにリニアストリームは、最高速度に達しているはず。あの車体の最高速度は時速七百五十キロ。確か今の話では、カーブ地点まで百三十キロということだったか。……まずい、もう十分もないぞ!)
リニアストリームのカーブ地点を越えたすぐ先には、松霧駅がある。世界最高速のリニアを間近で見ようと、大勢のギャラリーが集まっていることだろう。
大事故が起きるタイミング次第では、二次災害の現場にも成りかねない地点だ。
(……クソッ、こんなことに巻き込むつもりはなかったが……!)
和士は携帯を手に取ると、素早くとある連絡先にコンタクトを試みた。応答は――意外なほどに早かった。
『おん? 伊葉さんか? 何々、どったのさ』
「雨季か! お前今どこにいる!?」
『今? ストリームに乗った結花の見送りが終わったから、結花んちの皆とファミレスでお昼。……しかしどうしたんだよ一体。血相変えちゃって』
電話の向こう側では、仲睦まじく語らう家族達の姿が窺える。どうやら、陸を含む天坂家御一行は今、近場のファミレスで息抜きをしていたようだ。
「なんだと!? 例の少女までリニアストリームに!?」
『お、おう。……なんかマズイことでもあった?』
「まずいなんてものではない! とにかく、東京駅の近くにいるなら丁度よかった。お前は直ちに『救済の超駆龍』に着鎧し、松霧駅に先回りして住民を非難させろ!」
『え? えっ? どういうこった?』
突然の平静を欠いた和士の言い分に、陸は何事かと首を傾げた。だが――
「説明している時間はない、急げ! あと十分足らずで――あのリニアが脱線する!」
『……ッ!?』
――その理由を彼自身が思い知ったのは、その直後であった。
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