第32話 暴走、リニアストリーム
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音と共に、リニアストリームの車体が流れるように走り出して行く。大手を振り、その旅立ちを見送る人々の中には――天坂家と陸の姿もあった。
長身を活かした大仰な身振り手振りで、幼馴染を見送る彼は太陽のような笑みを浮かべ、こちらを見つめる少女と視線を交わす。
(……行って、きます)
(おう! 行ってこーい!)
僅か一瞬、にも満たないそのひと時の中で。陸と結花は、確かに通じ合っていた。
――刹那。猛烈な加速でレール上を疾走するリニアストリームは、瞬く間に人々の前から消え去って行く。
その閃光の如き加速で姿を消した後も、陸は暫し結花が向かう先を見つめ続けていた。
……一方。
薄暗い研究室に閉じこもったまま、和士は耳にヘッドホンを当て、ディスプレイにかじりついていた。
『――それでは皆様、快適な高速旅行をお楽しみ下さい』
「……」
耳元に届くのは、乗員のアナウンス。それだけではなく、車内の乗客達が談笑している様子が、音声として響いている。
平和そのものといった、その様子に聞き入る中で――和士は寸分の油断もなく、耳を澄ましている。
(機内情報にアクセスしてはみたが……やはり、これで異常が見つかるはずもないか。まぁ、何もないのならそれが一番なのだがな)
とは言え、聞こえてくるのは人々の穏やかな語らいのみ。平和の福音たるそのせせらぎだけが、和士の聴覚に響いている。
案じるだけ、無駄だっただろうか。
そう判断した和士が、ヘッドホンを一度外そうと手を動かした――その時。
『――か――?』
『おい――速度――』
『とにかく――止め――』
「……?」
ふと。
談笑している乗客達の声の中に。
言い争うような声が、僅かに混じる。
和士はキーボードを叩き、即座に微かな「不協和音」にフォーカスを充てた。集音機能で音声を拡大し、微かな話し声を一つ残らずかき集めて行く。
そして――「不協和音」の実態が、露わになる。
『だから! 早く減速しろと言ってるだろう!』
『やってます! でも――止まらないんですっ!』
『どうするんだ何とかしろ! カーブ地点まで、あと百三十キロ程度しかないんだぞ!』
『このスピードじゃ右折できない! 逆噴射機能はどうしたんだ!』
『だからさっきからやってます!』
口論の発信源は、車両最先端部の運転席。そこで繰り広げられていた諍いが、平穏の裏側を物語っていた。
楽しい未知の高速旅行の裏側では――惨劇の予兆が、その身を覗かせていたのだ。
「――くそッ!」
ヘッドホンを叩きつけ、和士は一目散に「超飛龍の天馬」に飛び乗って行く。そして――地下から地上へ翔ぶため、登り坂のカタパルトを展開させて行った。
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