第31話 ツナガルオモイ
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ぜそう感じたのかは、今でもわからない。だが、何と無くでも他ならぬ自分自身が「それでいい」と思ったのなら、それでいいだろう――と、気にも留めなかった。
その代わり。
結花のことを思い出させるものを見つけるたびに、彼女は今どうしているだろう、ちゃんとご飯食べてるだろうか、と気にかかるようになった。
彼女に代わって勉強を見てくれている結友から聞いた限りでは、回復傾向は今一つであり、度々部屋から出るようになった程度らしい。
リビングに出ては「らあめん雨季」の方向を窓から見つめて、ポロポロと涙を零していたという。――胸に、陸との思い出が詰まったアルバムを抱いて。
(……結花……)
足を無くしても。あれほど打ち込んできた陸上が出来なくなっても。大して辛くもないし、気に病むこともない。
だが――当たり前のようにいた幼馴染のことばかりが。気にかかる。
(……なんだよ。答えなら、出てんじゃねぇか)
ガバッと身を起こした陸は、携帯に手を伸ばすとメールを打ち始めた。過去に何度も送っても返事がなく、会いに行けば泣かれたため控えていたが――今なら、返事が貰える気がした。
『長い東京生活、お疲れさん! 見送り行くから、オレのこと忘れんなよ! 気が向いたら、また店に来てくれよな!』
特に変わったことは書かない。いつものように――そう、事故が起きる前の、あの頃のように。陸は、何一つ飾ることなく見送りの言葉を文面に起こした。
そして――送信から、僅か二分。
『うん。ありがとう。ごめんね。ごめんね』
事故以来、初めて返事が帰ってきた。天坂家の自室で、枕を抱いて少女が啜り泣く頃。陸は確かに、彼女の言葉を受け取ったのだ。
(陸……ごめんね。私、私……逃げることしかできなかった。もう一生かけても、償いきれないこと、しちゃったの。だから、もう陸には会わないって決めてた……)
何があっても変わらない、愛おしい幼馴染のメールは、結花の胸を締め付け、頬を濡らす。
(それでも……それなのに。そんな私だって、わかってるのに……会いたい、一緒にいたいって……思っちゃうの!)
ポロポロと、止まらない想いが。彼女の目に映る画面を、歪めていく。携帯を握る手が震え、噛み締めた唇に塩のような味が染み込んだ。
彼を拒絶することで、距離を置くことで。見放してもらうつもりでいた。自分という人間を、消してもらうつもりでいた。自分にできる償いなど、それしかないと思っていたから。
だが彼は、それすらも容易く受け止め、包み込んでしまう。優しくしないでと暴れる幼子を、あやすように。
そこまでされてしまったら、もう。ドロドロに、心を溶かされてしまったら。拒みようも、なくなってしまう。一緒にいたい、愛し合いた
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