第29話 天坂忠道の苦悩
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それ以上語ることはなく、忠道は陸の瞳を見つめ続けた。今一つ要領を得ない陸は、彼の言葉の意図が読めず、きょとんとした表情になる。
――その日の夕暮れ。病気を後にして、自宅への帰路についた陸は、未だに忠道が残した言葉に引っ掛かりを覚えていた。
(なんだったんだろうな? さっきのおっちゃん)
まるで何かを伝えようとして、上手く言葉に出来なかったことのような……言い知れぬ不自然さが、あの時の忠道に感じられた。
あれは一体、何だったのだろう。
――その思考を、目の前の光景が中断した。
「雨季陸、だな」
「おん?」
ふと、顔を上げた先には――いかにも怪しそうな、黒スーツのグラサン男。
この季節には余りにも似合わないその不審者を前に、陸は手馴れた動きで構えを取る。こうして因縁を付けられ喧嘩に発展した経験は、数え切れないほどあるのだ。
「カツアゲかい? 悪いね、帰りの電車賃くらいしか持ち合わせはねぇんだ!」
「――何を勘違いしてる、俺が喧嘩をしにきたとでも?」
「おん?」
――だが男は殺気をまるで見せず、何かする気配もないままサングラスを外して見せた。まるで敵意を感じない相手の雰囲気に、陸は毒気を抜かれたように構えを解く。
経験則と噛み合わない男の様子に不審を抱きつつも、陸は出方を伺おうと素顔を覗き込む。そして――目を丸くした。
「あれ? 兄ちゃん、どっかで見たことある顔してんな」
「――伊葉和士だ」
「うっそぉおぉぉおぉん!?」
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