第29話 天坂忠道の苦悩
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最適な環境である。それが、忠道の判断であった。
「……ふぅん」
「すまない。私とて、君と結花を引き裂きたいわけではないのだ、むしろ一日も早く一緒になって欲しいと思っている。だが、しかし――」
「――一応、聞くけどさ。その話、結花は知ってんのか?」
そんな彼に対し、陸は真剣な表情で厳かに問い掛ける。到底、「一応」という範疇の質問ではない。
その威圧を肌で感じた忠道は、彼に負けぬ真剣さを帯びた眼差しを、真っ向から注いだ。
「無論、結花にも話はしてある。その上で、この転校の話を決めた。――あの子も、『このままじゃ陸に合わせる顔がない』と泣いていたんだ。今を変えるには、きっかけが必要であると私達は思っている」
「――そうか」
「それに転校といっても、いつまでも引き離すつもりはない。それに休暇があれば会いに行ける距離だ。あの子は『陸にもう会えないなんて嫌』とも言っていたしな……」
忠道の真摯な言葉を受け、陸は厳かな表情のまま天井を仰ぐ。――そして。
「……だったら、オレから言うことは何もねぇ! 結花がそうしたいって言ってんなら、男のオレがグチグチ抜かす道理はねぇわな!」
「陸君……」
「それも全部、結花を元気にするために必要なんだろ? だったら、オレはおっちゃんを信じるぜ! 絶対、結花の笑顔を取り戻そうな!」
いつものような溌剌とした笑顔で、頷いて見せた。そんな娘の想い人に、忠道はシワの寄った頬を綻ばせ、胸を撫で下ろす。
「ありがとう……本当に。君が、結花の幼馴染で良かった」
「よせやい照れくさい」
頭を掻いてにへへと笑う陸に、忠道は穏やかな笑みを向けた。
結友の命を捨て身で救ったと聞く、海原凪という青年。川に流された結衣を間一髪救い出し、満身創痍になりながらも奮闘したという「救済の超飛龍」。
長女と次女がこの二人に恋心を抱いていることは忠道も知っていたが、人柄や実態が不明瞭である彼らに対し、忠道は父として不安を募らせていた。
だが、幼い頃から知っている陸に対しては至って好意的であり、三女のために戦ってくれた彼には深く感謝を捧げている。
(ヒーローとの恋……か。私の娘達は皆、そのような運命の中にいるのかも知れんな
。ただの偶然にしては、出来過ぎた結果だ)
そして、とある思いを胸に抱えた彼は――再び真摯な表情で、陸の顔を見遣る。そこからただならぬ様子を感じ取った陸は、何事かと首をかしげた。
「……おん? どしたのおっちゃん。オレの顔になんか付いてる?」
「……いや。さしたる意味はないが――陸君。私は、君はヒーローと称賛されるに相応しい人物であると思っている」
「は? なんだ急に」
「私がそう思った、というだけの話だ。大した意味はない」
「……?」
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