第29話 天坂忠道の苦悩
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く怒り、教師陣や生徒会にことの重大さを訴えたが――結果として陸の人柄が評価されただけに終わり、結花への不評が覆るには至らなかった。
それから、三ヶ月。結花への表立った苛めがなりを潜めた代わりに、彼女は「いないもの」として扱われるようになっていた。
陸は陸上部への入部こそ叶わなかったが、コーチとして協力して欲しいという部の要請に応える形で、マネージャーを務めている。かつて結花がそうして、彼を支えていたように。
高校に入ってからも難航していた彼の勉強は、結花に代わって長女の結友が見るようになっていた。
「らあめん雨季」に通い、陸に勉強を教える結友は、結花を案じる陸に知っている限りのことを伝え、彼を支えている。……次女の結衣はアイドル業が多忙である上に陸に劣らず頭が悪いため、この人選となっていた。
結友は高校三年の受験シーズンではあったが、すでに志望校への推薦入学が決まっているほどの才媛である。今は陸の勉強を手伝う一方で、自らが想いを寄せる命の恩人・海原凪の行方を捜す日々を送っていた。
忠道は娘の命を救ってくれた恩と、将来を奪ってしまった罪に報いるため、陸の主治医を引き受け積極的に彼のサポートを尽くしていた。
――そうして、どうにか彼らは事故から立ち直るための道へと進み出しているのだが。当の結花だけは、未だに回復の傾向が見られないのだ。
将来を捧げると誓った、最愛の幼馴染の未来を奪ってしまった――という事実を思えば、無理からぬことではあるのだが。
「……なんだかんだ言っても、結花もオレもちゃんと生きてる。出来なくなったのは、陸上だけだ。どうせいつかは親父の店を継ぐつもりだったんだから、それがちょっと早まっただけなんだよ。オレにとっちゃあな」
「そうかも知れん。だがあの子は、違っていた」
「って言われてもなぁ。千切れちまったもんはくっつけようもねぇんだし、いつまでもカリカリしたって仕方ねぇだろ。そんなことよりオレは早く結花の顔が見たいし、あいつが作る弁当が食いてぇ」
「――陸君。そのことなのだが……話があるんだ」
「おん?」
そこから忠道は、娘の幸せを願う父として一つの決断を語る。
――それは結花を祖父母の実家がある田舎へ転校させ、噂の届かないのどかな町で暮らさせる、というものだった。
ここまでの事態になった以上、もはやどれだけ取り繕ったところで、結花が五野高に復帰することは不可能に近い。
ならばせめて、ほとぼりが冷めるまで――最低でも高校卒業の年齢に至るまで、田舎の「松霧町」に転居させるしかない。幸いあの町には、町内唯一の高等学校「松霧高校」もある。
あの町は善良な住民が多く、治安も善い。自然も豊かで祖父母も優しい。結花のケアには
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